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稼ぐぞ

翌朝。


ARC本社。


会議室。


悠はホワイトボードの前に立っていた。


白石、九条、西園寺、橘、佐伯、高橋。


全員が揃っている。


悠は大きく書いた。


**収益化**


橘が止まった。


「……今、何て?」


悠は振り返る。


「収益化。」


「もう一回。」


「収益化。」


橘はゆっくり椅子から立ち上がった。


そして、悠の両肩を掴んだ。


「社長。」


「な、何だよ。」


「本当に?」


「本当だよ。」


「無料をやめる?」


「いや、ARCBOOKは無料のまま。」


橘の手が止まる。


「……座ります。」


「早いな。」


「一瞬だけ夢を見ました。」


白石が吹き出した。


西園寺も笑う。


「橘さん、相当苦労してましたからね。」


「誰のせいだと思ってるんですか。」


全員の視線が悠へ集まる。


「俺?」


「あなたです。」


悠は咳払いする。


「まあ、それは置いといて。」


「置かないでください。」


「話を進めるぞ。」


橘はため息をつきながら座った。



悠はホワイトボードを見る。


「ARCBOOKは無料のまま維持する。」


西園寺が手を上げる。


「じゃあ広告ですか?」


「そうだ。」


白石が少し嫌そうな顔をする。


「画面中に広告が出るの?」


「それはやらない。」


「よかった。」


悠は一本の線を引く。


**利用者**


その隣に。


**広告主**


「今まで俺たちは、利用者だけを見てきた。」


「これからは広告主にもARCBOOKを使ってもらう。」


西園寺が身を乗り出す。


「企業から広告費をもらう。」


「ああ。」


「テレビ、新聞、雑誌。」


「企業は昔から広告に莫大な金を使ってる。」


「でも、それには大きな問題がある。」


佐伯が聞く。


「問題?」


悠は白石を見る。


「白石がテレビで釣り竿のCMを見たら買うか?」


「買わない。」


「車は?」


「今はいらない。」


「化粧品。」


「それは見る。」


悠は頷く。


「これだ。」


白石。


「何が?」


「同じ広告でも、人によって価値が違う。」


西園寺が気付く。


「なるほど。」


悠はホワイトボードへ書く。


**必要な人に、必要な広告。**


「ARCBOOKには、利用者が自分から情報を出してる。」


「好きな映画。」


「音楽。」


「旅行。」


「ゲーム。」


「料理。」


「スポーツ。」


「参加しているコミュニティ。」


「書いている記事。」


高橋がすぐに反応する。


「個人情報の扱いは慎重にする必要があります。」


「ああ。」


悠は頷く。


「個人を特定して売るようなことは絶対にしない。」


「利用者の情報そのものを企業へ渡すこともしない。」


高橋。


「それなら設計次第です。」


悠は続ける。


「広告主が指定する。」


「旅行に興味がある人。」


「ゲームが好きな人。」


「映画をよく見る人。」


「ARCBOOK側が条件に合う利用者へ広告を表示する。」


西園寺が腕を組む。


「テレビみたいに一千万人へ同じ広告を見せるんじゃない。」


「ああ。」


「欲しい可能性が高い人へ見せる。」


西園寺が笑った。


「それ、企業は欲しがりますよ。」


「だろうな。」



橘だけが黙っていた。


悠が気付く。


「どうした?」


橘は電卓を叩いていた。


「利用者数。」


「訪問回数。」


「ページ表示数。」


数字を入力する。


しばらくして。


手が止まった。


「……社長。」


「何だ?」


「これ。」


橘が顔を上げる。


「かなり稼げません?」


悠は笑った。


「だから今まで待ったんだ。」


橘。


「最初から広告入れればよかったじゃないですか。」


「それじゃ駄目だった。」


「どうしてです?」


「人がいないから。」


悠はホワイトボードを見る。


「利用者が少ないサイトに広告を出したい企業は少ない。」


「でも今は違う。」


何百万人もの利用者。


一日に何度も訪れる。


記事を書く。


友達と話す。


コミュニティへ参加する。


ARCBOOKには巨大な人の流れが生まれている。


悠は言った。


「人を集めてから、稼ぐ。」


「順番が逆になると、サービスが育たない。」


橘は少し考える。


そして、これまでの投資額を思い出したのか深くため息をついた。


「長かった……。」


白石。


「まだ始まって一年も経ってないよ?」


「私には十年くらいに感じます。」


また笑いが起きた。



西園寺が聞く。


「いつ始めます?」


悠。


「まだ。」


橘が勢いよく立ち上がる。


「社長!」


「落ち着け。」


「もう十分待ちました!」


「広告主がいない。」


橘が止まる。


「……あ。」


西園寺が笑う。


「そこは俺の仕事ですね。」


悠は頷く。


「最初から広告主が勝手に来るとは思わない。」


「こちらから取りに行く。」


西園寺の顔が変わった。


営業の顔だった。


「目標は?」


「大手企業。」


「業種は?」


「全部。」


西園寺が笑う。


「いいですね。」


悠はホワイトボードへ最後の一行を書く。


**ARCBOOK広告事業**


「利用者からは、一円も取らない。」


「企業から稼ぐ。」


「そして、その金でもっとARCBOOKを良くする。」


橘が大きく頷く。


「賛成です。」


白石。


「今日一番元気だね。」


「当たり前です。」


悠は笑った。


そして、西園寺を見る。


「頼めるか?」


西園寺は立ち上がった。


「何社取ってくればいいです?」


悠は少し考える。


「まず十社。」


西園寺は即答した。


「分かりました。」


「いつまで?」


「一か月。」


西園寺が笑う。


「二週間ください。」


悠が眉を上げる。


「できるのか?」


西園寺は資料を手に取った。


「今のARCBOOKなら。」


「売るんじゃない。」


「企業の方が欲しがります。」


そう言って。


西園寺は会議室を出ていった。


橘がその背中を見送る。


そして、小さく呟いた。


「……やっと。」


白石。


「何?」


橘は笑った。


「お金が入ってくる。」


全員が笑った。


ARCBOOK。


利用者を集める段階は終わった。


次は。


その巨大な人の流れを。


新しい事業へ変える。


ご覧いただきありがとうございます!

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