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戻らない人々

競合会社が広告予算を倍増させてから、一週間。


テレビ。


雑誌。


駅。


インターネット広告。


人気芸能人を使った大型キャンペーン。


あらゆる場所で競合サービスの名前が目につくようになった。


その効果はすぐに現れた。


「新規登録、前週比六八%増です!」


会議室に拍手が起こる。


「よし!」


「やっぱり広告だ。」


「交流機能もある。これなら戦える。」


社長も久しぶりに笑った。


「このまま押せ。」


「はい!」


追い風が吹いた。


ように見えた。



二週間後。


会議室の空気は変わっていた。


「……もう一度言ってくれ。」


社長の声が低くなる。


担当者が資料を見る。


「新規登録者数は増えています。」


「それは分かってる。」


「問題は?」


担当者が言いにくそうに答える。


「定着しません。」


沈黙。


「登録した利用者の多くが、一度か二度利用したあと戻ってきていません。」


役員が眉をひそめる。


「交流機能はあるだろ。」


「あります。」


「メッセージも?」


「あります。」


「友達機能も?」


「あります。」


「だったら、なぜだ。」


誰も答えられなかった。


社長は机を指で叩く。


「調べろ。」


「数字じゃない。」


「利用者に直接聞け。」



数日後。


市場調査の結果が届いた。


『両方登録したけど、結局ARCBOOKしか見てない。』


『友達がARCBOOKにいるから。』


『こっちは登録しても知り合いが少ない。』


『ARCBOOKには学校のみんながいる。』


『好きなバンドのコミュニティがARCBOOKにある。』


『前の日記も全部ARCBOOKに残ってる。』


『わざわざ移る理由がない。』


『同じ機能なら、みんながいる方を使う。』


会議室は静まり返っていた。


社長は何度も資料を読み返す。


「……同じ機能なのに。」


分析担当が静かに答える。


「同じではありません。」


社長が顔を上げる。


「何が違う。」


「中にいる人です。」


誰も声を出さなかった。


分析担当は続ける。


「我々は機能を再現しました。」


「ですが、ARCBOOKの中ですでに作られた人間関係までは再現できません。」


一人の役員が呟く。


「友達は……連れてこられない。」


「はい。」


「しかも今はコミュニティがあります。」


「知り合いだけではなく、ARCBOOKの中で新しい人間関係まで生まれ始めています。」


社長は椅子へ深く座った。


ようやく。


意味が分かり始めた。


一か月かけて交流機能を作った。


広告費を倍にした。


芸能人も増やした。


新規登録者も増えた。


それでも。


人は戻ってしまう。


ARCBOOKへ。



その頃。


ARC本社。


西園寺が最新の数字を見る。


「社長、向こうの広告すごいですね。」


悠。


「ああ。」


「新規登録もかなり取られてます。」


「そうだな。」


西園寺が悠を見る。


「気にならないんですか?」


「ならない。」


「なんでです?」


悠は競合の数字を見る。


「登録した人数だけ見ても意味がない。」


「見るなら、その後だ。」


西園寺が資料をめくる。


そして笑った。


「なるほど。」


競合。


新規登録者。


急増。


一か月後の継続利用者。


急減。


ARCBOOK。


新規登録。


増加。


継続率。


高水準。


訪問回数。


さらに増加。


コミュニティ参加者。


急増。


西園寺。


「戻ってきてますね。」


悠。


「ああ。」


「人がいる場所にな。」



競合会社。


緊急役員会議。


社長は市場調査の資料を机へ置いた。


「広告をさらに増やす。」


財務担当が顔を上げる。


「さらにですか?」


「ああ。」


「キャンペーンも追加する。」


「ですが、費用対効果がかなり悪化しています。」


「ここで止めたら終わる。」


社長は強く言った。


「ARCBOOKに定着する前に、引き戻す。」


財務担当は黙る。


社長は続ける。


「まだだ。」


「まだ負けていない。」


役員たちは頷いた。


だが。


以前のような勢いはなかった。


その日の夕方。


一本の電話が入った。


社長室。


「はい。」


『お世話になっております。』


聞き慣れた声だった。


主要投資会社の担当者。


『少し、お話ししたいことがあります。』


社長の表情が止まった。


「……何でしょう。」


『今後の追加投資についてです。』


社長はゆっくり椅子へ座った。


窓の外では。


巨大な広告看板が。


まだ自社サービスを宣伝していた。


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