第96話 評価というもの
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ギルドに戻ったとき、いつもと空気が少し違っていた。
ざわついている、というほどではない。
だが視線が多い。
受付前を通るだけで、何人かの冒険者がこちらを見ているのが分かった。
「……なんか見られてません?」
エンが小声で言う。
「見られてるね」
カナは気にした様子もなく答えた。
ノアはいつも通り無表情だが、周囲の様子はきちんと観察している。
素材の換金を終えたあと、受付嬢が少し困ったような顔で言った。
「今回の討伐なんですが……少し確認が入りまして」
「確認?」
「はい。討伐報告が、珍しいもので」
そう言って奥へ引っ込む。
数分後。
戻ってきたのは、受付嬢だけではなかった。
周囲にいた何人かの冒険者も、自然と近くに集まっている。
「……あんたたち、本当に倒したのか?」
年上の冒険者が声をかけてきた。
責めるような口調ではない。
純粋な確認だった。
「はい」
エンが頷く。
「地形を変えるやつですよね」
「やっぱりか……」
男は頭を掻いた。
「俺らも前に挑んだことあるが、連携がぐちゃぐちゃにされてな。あれ、まともに戦えねえんだよ」
周囲からも同意の声が上がる。
「あの壁、視界切られると終わりだ」
「前衛と後衛が分断されるんだよな」
「逃げるしかなくなる」
エンは少し驚いた。
自分たちにとっては、今回のリベンジだった。
だが他のパーティにとっては、そもそも倒す対象ではなかったらしい。
「討伐記録も……ほとんどないんです」
受付嬢が小さく補足する。
「確認したところ、この街ではかなり久しぶりになります」
その言葉に、周囲がざわついた。
「マジかよ……」
「新人上がりのD級だろ?」
「三人で?」
視線が集まる。
だが嫌なものではなかった。
疑いというより、純粋な驚きだった。
カナが肩をすくめる。
「相性が良かっただけだよ」
「いや、あれ相性でどうにかなる相手じゃねえって……」
冒険者が苦笑する。
「普通は連携崩された時点で終わる」
エンは少しだけ考えた。
確かにそうかもしれない。
自分たちは、たまたま流れが切れなかった。
ただ、それだけだ。
だが――。
「……球が止まらなかったんです」
気づけば口にしていた。
周囲が一瞬静かになる。
「壁があっても、関係なかったので」
説明としては簡単すぎた。
だが、それが事実だった。
「……変わってんな」
誰かが笑った。
悪意はない。
むしろ楽しそうだった。
「でも、だから勝てたのか」
受付嬢が改めて頭を下げる。
「正式に討伐確認が取れました。報酬はこちらになります」
提示された金額は、普段より少し多かった。
危険度補正が入っているらしい。
カナが口笛を吹く。
「へえ、悪くないね」
ギルドを出ると、夕方の光が差し込んでいた。
エンは少しだけ肩の力を抜く。
「……なんか、すごいことしたみたいになってましたね」
「まあね」
カナは笑う。
「実際、嫌われてた相手だし」
ノアも小さく頷く。
「普通は戦いにくいです」
エンは空を見上げた。
実感は、あまりない。
できることをやっただけだ。
ただ、周りの反応が少し変わった。
それだけだった。
ギルドの二階。
窓際から、その様子を見ている人物がいた。
ギルドマスターだった。
「……やっぱりな」
小さく呟く。
報告書に書かれていた内容。
球が止まらない戦い方。
地形に縛られない動き。
「普通じゃない」
だが、それを今伝える必要はない。
本人はまだ、自分の異質さを理解していない。
それでいい。
ギルドの外では、三人が並んで歩いていく。
笑いながら、次の話をしている。
まだ、自分たちがどう見られ始めているのかも知らずに。
フロウラインの名前は、静かに広がり始めていた。
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