第93話 再挑戦
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D級ダンジョンの入口は、前に来た時と変わらなかった。
石造りの門。静かな空気。出入りする冒険者の数は多くない。
だがエンの中では、前回とはまったく違っていた。
あの時は、流れが作れなかった。
今回は違う。
「無理はしない」
カナがいつもの調子で言う。
「危なかったら戻るよ」
「はい」
「分かってます」
ノアも短く答える。
三人とも、焦りはなかった。
修行は終わっている。
あとは確かめるだけだ。
ダンジョン内部に入る。
石の通路。崩れた壁。分岐の多い構造。
そして――。
奥から、あの音が聞こえた。
石が擦れる音。
「……来ます」
エンが小さく言う。
前回と同じだ。
壁が動き、通路の形が変わる。
視界が遮られる。
だが、今回は足が止まらなかった。
小球が三つ、静かに浮かび上がる。
地面には触れない。
転がらない。
空中で位置を変えながら、前方へ進む。
壁がせり上がる。
通路が塞がれる。
だが球は止まらない。
壁の手前で軌道を変え、そのまま空中を滑る。
「……いけます」
エンははっきり言った。
流れが切れない。
地形に関係なく、動き続けている。
モンスターが現れる。
前回と同じ、魔法を使う個体。
距離を取りながら、壁を生成する。
だが――。
小球がその動きを追う。
逃げ場を塞ぐ。
地面ではなく、空中から。
動ける方向が減っていく。
「今です」
エンの声。
ノアが踏み込む。
短槍が一直線に伸びる。
衝撃音。
モンスターが崩れ落ちた。
戦闘は短かった。
前回とは比べ物にならないほど。
エンは小さく息を吐く。
「……止まらない」
自然に言葉が漏れる。
球が、止まらない。
壁があっても、通路が変わっても。
流れが続いている。
さらに奥へ進む。
壁が動く。
視界が遮られる。
だがもう慌てない。
小球が空中で循環する。
位置を変え、道を作る。
カナが前を押さえ、ノアが隙を待つ。
流れは崩れない。
「……前よりも楽になりましたね」
ノアが言った。
「はい」
エンも頷く。
結局、やっていることは変わらない。
ただ、地面で止まらなくなっただけだ。
やがて、開けた空間に出る。
エンは小球を浮かせたまま、ゆっくりと前を見る。
「ここからですね」
カナが肩を回す。
「うん。やっとスタートだ」
ノアも槍を構えた。
今度は逃げない。
流れは、もう途切れない。
フロウラインは、再び前へ進み始めた。
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