第84話 均形の強み
毎日20時投稿
E級ダンジョンから戻ったあと、三人はカナの作業場に集まっていた。
ノアの足元には、折れた短槍が三本転がっている。
「……やっぱり壊れますね」
ノアが淡々と言った。
先端が歪み、柄にひびが入っている。どれも修理して使う類の壊れ方ではなかった。
「そりゃあれだけ力乗せたらね」
カナは気にした様子もなく、新しい短槍を手渡す。
均一な形状。余計な装飾はない。見た目はどれも同じだ。
ノアはそれを受け取り、軽く振る。
「……重さ、同じですね」
「同じにしてるからね」
カナは当然のように答えた。
「長さも、重心も、全部同じ。持ち替えても感覚変わらないようにしてる」
ノアは少しだけ目を細める。
「普通は、一本ずつ微妙に違います」
「だろうね」
カナは肩をすくめた。
「でも、あんたの戦い方だと、その微妙な違いは邪魔でしょ」
これまで武器が壊れるというのは、大きな欠点だと思っていた。だが今は違う。
壊れる前提で用意されている。
だから、迷わなくていい。
「……これ、何本くらい用意してるんですか?」
「今は十本くらいかな」
さらりと言う。
「E級ならそれで足りるでしょ」
「でも、D級に潜るまでにはもっと作っておくよ」
ノアが少しだけ驚いた顔をした。
「そんなに?」
「壊れるんだから必要でしょ」
カナはあっさりしている。
「高い武器一本より、同じのを何本も使う方がいい」
ノアはしばらく黙って短槍を見ていた。
今までのパーティでは、武器の消耗は問題だった。
強く撃てば撃つほど、パーティの稼ぎが減る。迷惑になる。
だから、出力を落とすしかなかった。
だがここでは違う。
「……全力でいいんですね」
ぽつりと呟く。
カナは笑った。
「最初からそう言ってるじゃない」
エンは少しだけ安心する。
ノアの一撃は強い。
だが、それを支えるものがなければ成立しない。
カナの均形鍛冶は、派手ではない。
けれど確実に、戦いを安定させていた。
「壊れた分は鋳つぶして、また短槍に作り直しておくね」
「ところで、エンは?」
カナが振り返る。
「球の方はどう?」
「……まだですね」
エンは苦笑した。
「浮かし続けるのって、思ったより難しくて」
「そりゃそうでしょ」
カナは笑う。
「今まで転がしてたんだから」
作業場の隅には、いくつかの鉄球が並んでいた。
小球、大球、巨大球。
どれも傷一つない、滑らかな金属の球だ。
その横に、別のものが置かれている。
表面に細かい刻みが入った球。
わずかに突起のある球。
エンがそれに気づく。
「……これ、新しい球ですか?」
「ああ、それ?」
カナは軽く手を振った。
「試しに作ってるだけ。今の戦いには使わないよ」
「使わないんですか?」
「今のは完成してるからね」
並んだ均形の球を指で叩く。
澄んだ音が響いた。
「だから、これは別の方向」
職人らしい言い方だった。
「そのうち、使い道が見つかるかもしれないってだけ」
ノアがそれを見て、小さく言う。
「……変わってますね」
「よく言われる」
カナは笑った。
エンは小球を一つ手に取る。
滑らかな表面。
余計なものは何もない。
完成された形。
だからこそ、使い方は自分次第だ。
浮かせる。
動かす。
止めない。
まだうまくいかないが、やるべきことは見えている。
「明日から付き合います」
ノアが言った。
「修行」
エンは少し驚く。
「いいんですか?」
「はい」
短槍を肩に担ぐ。
「私も、スキルに頼らない戦いの練習をしますから」
言い方は変わらない。
だが、その距離は少しだけ近くなっていた。
作業場の窓から、夕方の光が差し込む。
フロウラインは、まだ完成していない。
だが、それぞれがやるべきことを理解し始めていた。
次の戦いに向けて、流れは静かに整い始めていた。
いつもありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、
★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
本作は毎日更新中です。
明日もお待ちしています。
作者の別作です。
現代日本×ヒーローSF
「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」
蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。
もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。




