第83話 噛み合う理由
毎日20時投稿
E級ダンジョンに潜るのは、これで三度目だった。
D級昇格は済んでいる。だが、フロウラインとしての連携はまだ固まりきっていない。
いきなりD級へ入るのは危険だと、三人とも理解していた。
「今日は少し奥まで行きます」
エンが小球を展開する。
見慣れた洞窟。足場も安定している。動きを確かめるにはちょうどいい場所だった。
後ろで、ノアが短槍を軽く握り直す。
「分かりました」
いつも通り、感情の薄い声。
だが視線は前よりも戦場を見ていた。
---
最初に現れたのは装甲の厚い獣型モンスターだった。
E級の中では硬い部類だ。
エンは小球を左右へ散らし、通路を狭める。獣は自然と中央へ寄る。
カナが軽く打ち合い、押し込まない。
逃げ道を残す。
だが、その先はすでに決まっている。
「……今です」
エンの声。
ノアが踏み込んだ。
一歩、止まる。
短槍を引き絞るように構える。
空気が一瞬だけ張り詰めた。
次の瞬間。
一直線の突き。
鈍い衝突音と共に、装甲が歪む。獣の体がその場で止まり、崩れ落ちた。
エンは思わず息を飲む。
速い、というより重い。
当たった瞬間に、終わっていた。
「……今のが?」
「はい。本気です」
ノアはあっさり答える。
槍先を確認する。
先端がわずかに歪んでいた。
「ほら」
そう言って、柄を軽く回す。
金属が嫌な音を立てた。
「もう次はだめですね」
エンが驚く。
「もうですか?」
「全力だと、だいたいこうなります」
いつものこと、という口調だった。
そのまま進む。
次の戦闘でも同じだった。
エンが流れを作り、カナが受け、ノアが決める。
二体同時に現れた場面では、最初の一撃で一体を沈め、間髪入れずに二撃目を放った。
今度は完全に槍先が曲がった。
ノアは迷いなく武器を下ろす。
「……これでもう、この槍も終わりです」
エンは思わず言った。
「武器、足りなくなりませんか?」
「なります」
即答だった。
「だから、長く組めないことが多かったです」
準備に時間がかかり、武器は消耗する。
火力はあるが、継戦能力がない。
それが今までの評価だった。
そこで、カナが前に出た。
「はい」
差し出されたのは、新しい短槍だった。
ノアが目を瞬かせる。
「……え?」
「予備」
カナは当然のように言う。
「どうせ壊すでしょ」
均一な金属光沢。
装飾はない。だが重心は整っている。
「均形鍛冶。強くはないけど、全部同じ」
カナは肩をすくめた。
「壊れる前提なら、この方がいい」
ノアはしばらく無言で槍を見ていた。
重さを確かめ、軽く振る。
違和感がない。
「……いいんですか」
「使う人がいるならね」
カナはあっさり言った。
「作るのは私の得意分野だから」
その後の戦闘は、明らかに変わった。
ノアが躊躇しない。
壊れることを前提に、一撃を撃つ。
エンは小球を動かしながら、その変化を感じていた。
敵が逃げない。
いや、逃げられない位置にいる。
そこへ、必ず一撃が来る。
戦闘後、ノアがぽつりと言った。
「……当てやすいです」
短い言葉だった。
「今までは、最後に避けられることが多かったんです」
「逃げ道、ないですからね」
エンが言う。
ノアは少しだけ考える。
「どうやって?」
エンは言葉に詰まった。
説明しようとして、うまくできない。
代わりにカナが口を開いた。
「エンは追ってないの」
床を指で示す。
「逃げる場所を先回りして減らしてるのよ」
ノアはゆっくり頷く。
戦闘の感覚と一致したのだろう。
「……今までは」
ノアが言う。
「自分で全部作るしかなかったんです」
隙も、距離も。
「だから見えた瞬間に撃ってました」
それが一番確実だったから。
「ここだと」
ノアは新しい短槍を肩に担ぐ。
「待ってもいいんですね」
カナが笑う。
「うん。相性いいかもね」
ダンジョンの出口が見えてくる。
ノアが小さく呟いた。
「……悪くないです」
振り返らずに言ったその言葉は、前よりもわずかに柔らかかった。
フロウラインという名前が、少しずつ形になり始めていた。
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