第79話 E級五回制覇
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ギルドの扉を開けた瞬間、いつものざわめきが耳に入ってきた。
昼過ぎの時間帯。
依頼帰りの冒険者と、これから潜る者たちが入り混じり、受付の前には列ができている。
特別な空気はない。
いつも通りだ。
「……戻ってきた感じしますね」
エンが小さく言うと、カナが笑った。
「そりゃ帰ってきたからね」
E級ダンジョン五回目の攻略。
特別な宣言も、歓声もない。ただ、いつもと同じように受付へ向かう。
素材を提出し、簡単な報告を済ませる。職員は手慣れた様子で記録を書き込み、確認の印を押した。
「これで、E級ダンジョン制覇五回ですね」
「はい」
「後日、ギルドマスターとの面談があります。日程は改めてお知らせします」
淡々とした口調だったが、その言葉にエンは少しだけ姿勢を正した。
「……面談、ですか」
「D級昇格の条件には、審査がありますので」
それだけ言って、職員は次の冒険者を呼ぶ。
特別扱いはない。
だが、それが逆に現実味を持っていた。
換金を終え、二人は掲示板の前に移動する。
いつもと同じ場所。
だが視線が少し違う。
「お、終わったんだな」
声をかけてきたのはレオだった。大剣を肩に担ぎ、いつもの調子で笑っている。
「聞いたぞ。五回目」
「うん。なんとか」
「なんとか、で済ませるなよ」
レオは呆れたように笑った。
「もうE級五回は普通にすげえって」
言い方は軽いが、そこにからかいはない。
純粋な言葉だった。
「レオはどこまでいった?」
「俺?あと一回」
肩をすくめる。
「先に行ってたはずなんだけどな」
そう言いながらも、悔しさよりもどこか楽しそうだった。
「まあ、すぐ追いつくけどな」
「待ってるよ」
「待つな。すぐだ」
二人は軽く笑い合う。
周囲の同年代の冒険者たちも、ちらりとこちらを見る。
以前のような好奇の視線ではない。
評価を測るような目でもない。
ただ――同じ位置に立つ者を見る目だった。
「……変な感じですね」
エンが呟く。
「なにが?」
「前は、変に見られてる感じだったのに」
今は違う。
視線が自然だ。
そこに理由を求めていない。
ただ、同じ冒険者として存在している。
カナは少しだけ笑った。
「視線に慣れただけでしょ」
ギルドを出ると、夕方の風が街を抜けていた。
風の遺跡で感じたものと、どこか似ている。
エンは空を見上げた。
「……終わりましたね」
「うん」
カナが頷く。
「E級はね」
言い方が少しだけ強調されていた。
エンは苦笑する。
「次はD級、ですか」
「審査が通ってからだけどね」
カナは腕を組みながら歩く。
「でも、やることは変わらないよ」
「そうですね」
強くなった実感はある。
けれど、何かが劇的に変わったわけではない。
できることが少し増えただけだ。
それだけで、次に進める。
マジックバッグの中で、小球が小さく触れ合う音がした。
エンはそれを聞きながら、自然と笑う。
球は止まっていない。
自分たちも同じだ。
E級の終わりは、ただの通過点だった。
次の段階は、もうすぐそこまで来ている。
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