第78話 落ちる一撃
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風が吹きすさぶ。
獣は高所で身を低くし、次の攻撃の機会を窺っていた。
だがエンも先ほどまでとは違う。
エンはもう、追っていなかった。
小球を一つ、斜面へ流す。
もう一つを崩れた柱の根元へ置く。
戻さない。
動かさない。
ただ、そこに置く。
獣が跳ぶ。
いつものように安全な足場へ――降りようとして、わずかに動きを変えた。
そこには小球がある。
踏み込めない。
別の場所へ降りる。
だがそこも、さっきまでとは違う。
段差の先に巨大球が転がり、退路を塞いでいた。
「……そうか」
エンは小さく息を吐く。
分かった。
流れは作るものじゃない。
相手が選べる場所を減らせば、自然にできる。
獣が低く唸る。
初めて、迷いが見えた。
跳ぶ先がない。
安全な着地点が、減っている。
「いいよ、エン」
カナが前に出る。
「そのまま」
獣が動く。
強引に距離を詰めてきた。
もう選択肢が少ない。
カナが一撃を受け止め、横へ流す。
完全に止めない。
逃げ道を一つだけ残す。
エンは上を見上げた。
崩れた天井。
斜面。
そして、自分の上にある大球。
落ちる場所は、もう決まっている。
獣が最後の跳躍を選ぶ。
逃げるための一手。
だがその先は――。
「転進」
エンの声と同時に、大球が落ちた。
回転を乗せたまま、重力に引かれて加速する。
逃げ場はない。
獣が着地した瞬間、真上から叩きつけられた。
鈍い衝撃音が遺跡に響く。
砂埃が舞い上がる。
そして――獣は動かなくなった。
風の音だけが残る。
小球がゆっくりと転がり、どこかで止まった。
エンはしばらく動かなかった。
呼吸を整え、ようやく肩の力を抜く。
「……終わりました」
「うん」
カナが笑う。
「ちゃんと倒せたね」
エンは周囲を見回す。
球はもう循環していない。
それでも、戦いは繋がっていた。
戻ってこなくても、問題なかった。
「……できましたね」
「うん」
カナは軽く頷く。
「戦い方が完成しました」
その言葉に、エンは少しだけ照れたように笑った。
二人の間を風が吹き抜ける。
崩れた遺跡の上には、青い空が見えていた。
特別な何かが変わったわけではない。
新しい技を覚えたわけでもない。
ただ――うまくいった。
それだけだった。
だが、それだけのことがエンにとっては一番重要だった。
「帰りましょうか」
「そうだね」
二人は並んで歩き出す。
E級ダンジョン、五回目の攻略。
最後の戦いは、静かに終わった。
だが胸の中には、不思議と軽い達成感が残っていた。
次へ進める。
そんな確かな感覚と一緒に。
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