第66話 転進の衝突
毎日20時投稿
霧守が一歩踏み出すたび、床が鈍く揺れた。
小球が足元に当たる。
だが止まらない。
わずかに軌道を変えるだけで、そのまま前へ進んでくる。
「……小球じゃ無理ですね」
「うん。止まってない」
カナは距離を取りながら答える。
これまでの敵とは違う。
流れは崩せるが、決定打にならない。
重さが違った。
霧守が腕を振り下ろす。
石が砕け、破片が跳ねる。
エンは大球を滑らせた。
正面からぶつける。
鈍い衝突音。
だが――止まらない。
霧守の体がわずかによろけただけで、すぐに踏み直す。
「……足りない」
エンは息を吐いた。
転進を使えば押し切れるかもしれない。
だが霧が濃い。
直線では当てにくい。
外せば隙になる。
霧守が再び踏み込む。
エンは大球を引き戻した。
小球は動き続けている。
進路を少しずつ限定しているが、それだけでは倒せない。
「エン」
カナが短く言う。
「真っ直ぐじゃなくていい」
その言葉で、エンの意識が切り替わった。
そうだ。
ここは霧の遺跡だ。
見えないのは、相手も同じ。
大球を横へ流す。
壁に当てる。
鈍い反射音。
角度が変わる。
霧守がそちらを向く。
だが、次の瞬間には軌道が消えている。
霧の中に入ったからだ。
エンは音だけを聞く。
転がる重い音。
どこに出てくるか、分かる。
小球が進路を横切る。
霧守が一瞬足を止めた。
その隙に、大球が側面から現れる。
衝突。
体勢が崩れる。
「いい!」
カナが叫ぶ。
だがまだ倒れない。
霧守は腕を振り回し、大球を弾いた。
重い音とともに、大球が別の壁へ向かう。
エンは追わない。
そのまま反射させる。
壁に当たる音。
方向が変わる。
もう一度、霧の中へ消える。
「……行ける」
エンは確信した。
当てる必要はない。
出てくる場所を作ればいい。
小球が足元を横切る。
霧守の動きがわずかに制限される。
逃げる方向が減る。
そこへ、大球が再び現れた。
今度は真正面。
霧守が腕を振り上げる。
避けようとする。
だが、その先は壁だ。
エンはその瞬間を待っていた。
「――転進!」
大球が唸りを上げた。
回転が一気に加速する。
反射で得た速度に、転進の力が重なる。
鉄球が霧を裂き、真正面から霧守へ叩き込まれた。
轟音。
石の体が浮き上がり、背後の壁へ激突する。
崩れる音。
動かない。
静寂が戻る。
霧の中で、小球だけが転がり続けている。
エンはしばらく動かなかった。
やがて、大きく息を吐く。
「……倒せました」
「うん」
カナが笑う。
「やっと決定打が噛み合ったね」
エンも笑った。
小球だけでは終わらない。
流れを作り、逃げ道を消し、最後に叩き込む。
それが今の戦い方だった。
霧の中で、金属音が静かに響いている。
小球はまだ動いている。
止める必要はなかった。
エンはその音を聞きながら思う。
球を動かしているのではない。
動き続ける流れの中で、最後の一撃を選ぶだけだと。
霧の遺跡の奥で、E級の戦い方が一つ完成した。
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