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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
2章:戦い方のかたち

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第65話 止まらない流れ

毎日20時投稿

霧の遺跡に入ると、エンはいつものように足を止めた。


まず小球を転がす。


一つ、二つ、三つ。


それぞれ別の方向へ流れ、壁に当たり、音だけを残して霧の中へ消えていく。


金属音が、少し遅れて返ってくる。


カン、と乾いた音。


また別の方向から同じ音が返る。


「……いい感じですね」


「うん」


カナは周囲を見ながら頷いた。


もうこの準備は自然なものになっていた。


敵を探す前に、流れを作る。


戦闘はそのあとだ。


二人が歩き出す頃には、小球はすでに通路を巡回していた。


霧の中で見えなくなっても問題はない。


どのあたりを通っているかは、音と感覚で分かる。


魔物が現れる。


二体。


だがエンは動かない。


小球の一つが進路を横切る。


魔物が足を止める。


「今」


カナが踏み込み、一体を叩き伏せる。


もう一体が距離を取ろうとする。


そこへ別の小球が戻ってくる。


逃げ場が消え、大球が滑り込む。


戦闘は一瞬だった。


「……楽ですね」


エンは正直に言った。


「うん。前よりずっと」


カナも笑う。


エンはほとんど動いていない。


必要なときに、ほんの少し触れただけだ。


球が動き、敵の位置が崩れ、終わる。


危ない瞬間がない。


さらに奥へ進む。


霧は少し濃くなっていた。


小球の音が反響し、位置の感覚が少しだけ狂う。


だが問題はない。


流れができている限り、大きく崩れることはない。


三体の魔物が現れる。


左右に散開する動き。


以前なら操作が増えていた場面だ。


だが今は違う。


小球が自然に左右へ流れ、進路を制限する。


カナが一体を倒し、残りを大球で押し切る。


終わるまで、ほんの数秒だった。


「……もう別物だね」


カナがぽつりと言った。


「え?」


「前はさ、エンが全部動かしてた」


霧の中を見ながら続ける。


「今は違う。勝手に形になってる」


エンは少し考えてから笑った。


「自分でも、そんな感じです」


球を動かしている感覚がない。


流れがあって、自分はそれを崩さないようにしているだけだ。




通路を抜けた先で、空間が広がった。


遺跡の奥。


天井の高い広間だった。


霧が、ここだけ少し濃い。


音が吸われるように静かになる。


「……広いですね」


エンは足を止めた。


小球の音が、いつもより遠くで響く。


反射の間隔が変わっている。


空間が広い証拠だった。


そのときだった。


霧の奥で、重い音が響いた。


――ズン。


小球の音とは違う。


重い、踏みしめるような音。


もう一度。


ズン。


霧の向こうから、大きな影が現れる。


石のような質感の体。


人型に近いが、明らかに人ではない。


遺跡を守る存在。


「……ボスですね」


カナが低く言う。


霧守。


霧の遺跡ダンジョンの最奥に現れる大型個体。


ゆっくりと、しかし確実にこちらへ歩いてくる。


小球が足元に当たる。


だが、止まらない。


気にした様子もなく前進する。


「……止まりませんね」


エンは小さく息を吐いた。


小球では、動きを崩せない。


質量が違う。


これまでの相手とは明らかに違っていた。


霧守が腕を振り上げる。


重い風切り音。


床が砕ける。


「エン!」


「はい!」


エンは小球の流れを維持したまま、大球を前へ出した。


ここから先は、流れだけでは終わらない。


決定打が必要になる。


霧の中で、大球が静かに回転を始めた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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