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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
2章:戦い方のかたち

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第64話 先に動く戦場

毎日20時投稿

霧の遺跡に通いだしてしばらく経ったころ。


遺跡に入ると、エンはすぐには奥へ進まなかった。


入口近くの広い通路で立ち止まり、小球を三つ転がす。


それぞれ別の方向へ。


壁に当たり、反射し、霧の中へ消えていく。


音だけが残る。


カン、と乾いた音。


少し遅れて、また別の場所から同じ音が返ってくる。


「……行きましょう」


「うん」


カナは慣れた様子で周囲を見ていた。


最近は、これが準備になっている。


戦闘の準備ではない。


戦場の準備だ。




小球は止まらない。


互いにぶつかり、方向を変え、また転がる。


エンはほとんど触らない。


軌道が偏りそうなときだけ、わずかに修正する。


それだけで、動きが続く。


霧の中に、見えない流れができていく。


「行きます」


二人は歩き出した。




魔物が現れる。


三体。


霧の向こうから飛び出してくる。


だが、エンはすぐには動かない。


すでに小球が動いているからだ。


一体が前へ踏み込もうとした瞬間、横から小球が通過する。


足が止まる。


別の個体が回り込もうとする。


そこへ、反射して戻ってきた別の球が入り込む。


進路が消える。


「今」


カナが前に出て叩き伏せる。


残った個体が後退する。


そこへ大球を滑らせる。


短い衝突音。


戦闘は一瞬で終わるようになっていた。




エンは小さく息を吐いた。


「……始まる前に終わってますね」


「うん」


カナが笑う。


「敵は入った時点で負けてる」


敵が強くなったわけではない。


エンが速くなったわけでもない。


ただ、戦闘が始まる前に形ができている。




さらに奥へ進む。


霧の中で、小球の音が規則的に響いている。


エンはそれを聞きながら歩く。


どの方向から何が来ても、ある程度は対応できる。


すでに球がそこを通るからだ。


「……前は」


エンがぽつりと言う。


「敵が出てから動かしてました」


「うん」


「今は逆ですね」


カナは頷く。


「先に動いてる」




次に現れた魔物は四体だった。


左右に分かれて接近してくる。


以前なら操作が増えていた状況だ。


だが今は違う。


小球の一つが左側を横切る。


もう一つが右側へ流れる。


偶然ではない。


そうなる流れを先に作っていた。


魔物が足を止めた瞬間、カナが前に出る。


エンは大球を一度だけ動かした。


それで終わった。




戦闘後、エンは少しだけ空を見上げた。


霧で天井は見えない。


だが、感覚ははっきりしている。


「……戦ってる感じがしないんですけど」


「いいこと」


カナは即答した。


「危なくないってことだから」


エンは苦笑する。


確かにそうだった。


焦る瞬間がない。


追い込まれる前に終わっている。




霧の中で、球がまたどこかに当たる音がした。


エンはそちらを見ない。


次にどこへ来るか分かるからだ。


戦場は、目の前にはない。


少し先にある。


自分が動く前に、すでに動いている。


エンはようやく理解していた。


戦うとは、反応することではない。


先に形を作ることだと。


霧の遺跡の中で、戦場そのものがエンの側に傾き始めていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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