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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
2章:戦い方のかたち

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第63話 予測

毎日20時投稿

霧の遺跡に入ると、いつものようにエンは最初に小球を転がした。


一つ、二つ。


霧の中へ消えていく金属の音が、少し遅れて返ってくる。


止めない。


触らない。


球は壁に当たり、方向を変え、またどこかへ転がっていく。


その音を聞きながら、エンはゆっくり歩き出した。


以前と違うのは、焦りがないことだった。


見えなくても構わない。


どこにあるか、だいたい分かる。


どのあたりを通って戻ってくるかも、想像できる。


「……来ます」


霧の奥で気配が動く。


魔物が二体。


エンは小球を動かさない。


少し待つ。


数秒後、転がる音が近づいてきた。


予想していた方向から、小球が現れる。


魔物の進路を横切る。


足が止まる。


「今」


カナが踏み込み、一体を叩き伏せる。


もう一体が後退する。


その退路に、別方向から戻ってきた小球が入り込む。


逃げ場が消える。


今回も、戦闘は短く終わった。




「……見なくなったね」


カナが言う。


「はい」


エンは頷いた。


「音で分かるようになってきました」


だが正確には、音だけではない。


どの角度で当たり、どれくらい転がるか。


それまでの流れを、頭の中で繋げている。


球を追っているわけではない。


動きを予測している。




さらに奥へ進む。


三つの小球は、霧の中でそれぞれ別の軌道を描き続けている。


すべてを意識しているわけではない。


だが、どれがどの辺りにあるかは分かる。


必要なときだけ触れる。


それで十分だった。


魔物が三体現れる。


左右に散開する動き。


以前ならここで操作が増えていた。


だが今は違う。


すでに球が動いている。


魔物が動こうとする場所に、自然と球が入り込む。


動線が狭まる。


カナが一体を仕留める。


残りは大球で押し切った。


戦闘が終わる。


エンは少しだけ息を吐いた。


「……前より、考えることが減りました」


「うん」


カナは頷く。


「迷ってない」


エンは少し考えてから頷く。


確かにそうだった。


以前は、敵が出るたびにどう動かすかを考えていた。


今は違う。


すでに動いている流れの中で、何が起きるかを先に考えている。


霧の奥で、小球同士がぶつかる音がした。


乾いた金属音。


軌道が変わる。


エンはそちらを見ない。


どこへ向かうか、想像できるからだ。


少し先の通路。


もし敵が出てきたら、ちょうどそこを横切る。


「……なるほど」


エンは小さく呟いた。


「球を動かしてるんじゃないですね」


「ん?」


「先に動きを決めてるだけです」


カナは少しだけ笑った。


「やっと言葉になったね」


霧の中で、球は見えないまま動き続けている。


エンはもう、それを追わなかった。


必要なのは、今どこにあるかではない。


次にどこへ来るか。


その予測だけで十分だった。


戦闘は、目の前で起きているものではなくなりつつある。


少し先で、もう始まっているものになっていた。


E級の戦い方が、静かに変わっていく。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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