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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
2章:戦い方のかたち

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第58話 見失う軌道

毎日20時投稿

霧の遺跡に入って三度目の探索だった。


視界の悪さには少しずつ慣れてきている。


だが、慣れたことと安定することは別だった。


小球を前へ流す。


白く霞んだ空間の中へ、球が消えていく。


位置は分かる。


感覚では追えている。


それでも――不安が残る。


「……まだ、遅れますね」


「うん」


カナは短く答えた。


「まだまだ、見えなくなってから考えてる」


否定できなかった。




通路の先で、物音がした。


霧の向こうから、低い唸り声。


二体。


さらに別方向からもう一体。


「三体」


カナが先に言う。


エンは小球を動かす。


だが霧の中で位置を見失った。


一瞬だけ、どこにあるか分からなくなる。


「……あ」


判断が遅れる。


魔物が距離を詰めてきた。


「右!」


カナが前に出て一体を止める。


エンは大球を呼び戻すが、軌道が大きくなりすぎた。


衝突音。


一体を弾くが、もう一体が横を抜ける。


戦闘が長引く。


結果として勝てはしたが、明らかに消耗していた。


戦闘後、エンはその場に立ち尽くす。


小球は霧の中で転がり続けている。


今どこにあるかは分かる。


だが、さっきは分からなかった。


「……見失いました」


「うん」


カナは責める様子もなく頷いた。


「また目で探したでしょ」


「はい」


エンは息を吐く。


見えなくなると、無意識に探してしまう。


見つけてから動かそうとする。


その間に遅れる。




さらに奥へ進む。


霧は変わらず、視界は曖昧なままだ。


今度は二方向から同時に魔物が現れた。


エンは小球を動かす。


一方向は止められる。


だがもう一方が遅れる。


「エン、そっち!」


「分かってます!」


大球を動かす。


しかし、位置確認のために一瞬意識を割いた。


その間に小球の軌道がずれる。


流れが崩れる。


カナが前に出て押し返し、なんとか立て直した。




戦闘が終わる。


エンは静かに息を吐いた。


「……一人で全部やろうとしてました」


ぽつりと呟く。


カナは少しだけ笑った。


「今さら?」


「はい……」


エンは苦笑する。


今までは、それで成立していた。


球は見えていたし、位置も把握できた。


だが霧の中では違う。


全部を確認しようとすると、必ず遅れる。


小球が、霧の中でどこかに当たる音がした。


カン、と乾いた音。


少し遅れて、別の方向からまた音がする。


エンは顔を上げた。


「……今の」


「壁に当たったね」


カナが言う。


音だけで位置が分かる。


見えていないのに。


エンはしばらく考え込む。


球は、見えなくても動き続けている。


止まっていない。


なら――。


「……見てなくても、動いてるんですよね」


「うん」


「じゃあ、ずっと動いてる状態なら……」


言葉の途中で止まる。


まだ形になっていない。


だが、何かが繋がりかけている。


---


帰り道。


エンは球をあまり触らなかった。


霧の中で転がる音だけを聞く。


どこにあるか、想像する。


触らなくても、動いている。


止めなければ、流れは続く。


「……見えない方が、いいのかもしれません」


思わず口にする。


カナは少しだけ驚いた顔をしてから笑った。


「やっと分かってきたね」


霧の遺跡は、不便な場所ではない。


見えないからこそ、余計な操作ができない。


エンはようやく気づき始めていた。


球を動かすのではない。


――動き続ける状態を作ること。


その先に、次の戦い方があるのだと。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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