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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
2章:戦い方のかたち

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第51話 足りないもの

毎日20時投稿

翌日。


エンは珍しく、朝から何もしていなかった。


鍛冶場の隅に置かれた大球を、ただ眺めている。


磨かれた金属の表面には歪みがない。いつも通り、完全な球だった。


変わったのは、自分の方だ。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


地下水路での戦闘が、何度も頭の中で繰り返される。


判断は間違っていなかった。


無理をせず撤退した。


それでも――何もできなかった感覚だけが残っている。


「考えすぎ」


背後から声がした。


振り返ると、カナが腕を組んで立っていた。


「顔、ずっと同じ」


「そんなにですか?」


「うん。分かりやすい」


カナは作業台に腰を預ける。


「で、何が引っかかってるの」


エンは少し迷ってから口を開いた。


「……勝てないわけじゃないんです」


「うん」


「でも、戦えてる感じがしなくて」


言葉を探しながら続ける。


「今までは、球を置けば形になってました。でも地下水路は……全部ずれるんです」


止まらない。


思った場所に残らない。


準備ができない。


「だから、全部遅れる」


カナは即座に言った。


エンが顔を上げる。


「エンの戦い方ってさ」


カナは大球を軽く叩く。


「まず置くでしょ。それから戦う」


「……はい」


「でもあそこは、置けない」


それだけだった。


だが、核心だった。


---


エンはしばらく黙り込む。


確かにそうだ。


今までの戦闘は、球を置くことで始まっていた。


位置を作り、流れを作り、そこから戦う。


だが地下水路では、その前提が成立しない。


「じゃあ……どうすれば」


「逆にする」


カナは迷わず言った。


「戦いながら形作る」


エンはその言葉を反芻する。


戦いながら。


形を作る。


「止める前提じゃなくて、動いてる前提」


カナは続ける。


「球が動くなら、動くまま使う」


簡単に言う。


だが、それは今までのやり方を根本から変える話だった。


---


エンは大球に触れる。


転進。


これまでは、止まった状態から加速させていた。


だが地下水路では、すでに動いている。


「……回転、ですね」


「うん?」


「転進って、真っ直ぐ飛ばすことばかり考えてました」


エンはゆっくり言う。


「でも、本当は回ってるから動いてるんですよね」


カナは少し考えてから頷く。


「まあ、そうだね」


エンの頭の中で、戦闘の映像が繋がり始める。


止めるから、次の動きが遅れる。


最初から動いていれば――。


「……まだ分からないですけど」


エンは小さく笑った。


「やることは見えました」


「ならいい」


カナはそれ以上言わない。


---


外に出ると、朝の空気が冷たかった。


エンは地面に小球を置く。


軽く押す。


球はゆっくりと転がっていく。


止めない。


そのまま、もう一度触れる。


少しだけ方向が変わる。


「……あ」


今までとは違う感覚だった。


押すのではない。


流れを変える。


エンはもう一度、小球を動かした。


まだぎこちない。


だが確かに、新しい感覚があった。


地下水路で足りなかったもの。


それは力でも技でもない。


――考え方だ。


E級は、まだ終わらない。


次に進むための道が、ようやく見え始めていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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