第48話 地下水路
毎日20時投稿
ゴブリンキングを討伐してから数日後。
ギルドの掲示板に、新しく公開されたE級ダンジョンの情報が貼り出されていた。
「地下水路型……」
紙を読みながら、エンは小さく呟く。
石造りの通路。常に水が流れており、床は滑りやすい。高低差あり。視界は狭く、音が反響しやすい――そんな説明が並んでいる。
「今までとだいぶ違いますね」
「うん。だから行く」
横でカナが即答した。
「得意な場所ばっかり潜っても意味ないし」
エンは苦笑する。
確かにその通りだった。洞窟型では、球を置いて戦場を作る戦い方が安定してきている。
だからこそ、違う環境でどうなるかを知る必要がある。
「様子見、ですね」
「今日はそれでいい」
地下水路の入口は、これまでのダンジョンとは明らかに雰囲気が違っていた。
人工的に積まれた石壁。低い天井。湿った空気。
足元では、浅い水が細く流れている。
靴の裏がわずかに滑る。
「……これ、転がりますね」
「うん。止まらないと思う」
カナが床を軽く踏んで確かめる。
エンは小球を一つ前へ出した。
いつもなら、その場で静止するはずの球が――ゆっくりと前へ流れていく。
「……あ」
止まらない。
わずかな傾斜と水の流れで、自然に転がっていく。
「置けないですね」
「うん。このダンジョンじゃ、今までのように球を置く戦いができないわね」
カナの言葉に、エンは小さく息を吐いた。
自分の戦い方の前提が、一つ崩れた。
最初の敵はすぐに現れた。
曲がり角の先から、ゴブリンが二体。
エンは小球を前に出す。
だが球が滑る。
止まる位置がずれる。
ゴブリンがその隙間を抜けて距離を詰めてきた。
「近い!」
カナが前に出て、ハンマーで押し返す。
エンは慌てて大球を動かした。
だが、勢いが乗りすぎた。
ゴブリンを弾いたあと、大球がそのまま通路の奥へ流れていく。
「……止まらない!」
「追わない!」
カナの声で、エンは手を止めた。
追えば位置が崩れる。
残った一体をカナが叩き、なんとか戦闘は終わった。
だが、いつもより消耗が大きい。
「やりにくいですね……」
壁にもたれながら、エンが言う。
「うん。球が勝手に動く」
カナは冷静だった。
「今までは、止めて使ってたでしょ」
「はい」
「ここは逆。動く前提で考えないと」
エンは床を見る。
水はわずかに流れているだけだ。だが、それだけで球の挙動が変わる。
置くことができない。
つまり――戦場を固定できない。
さらに奥へ進む。
通路は狭く、横に避ける余裕も少ない。
ゴブリンが三体現れた。
エンは慎重に小球を動かす。
だが、やはり止まらない。
位置がずれ、想定より早く敵が接近する。
「エン、左!」
「はい!」
大球を出す。
今度は威力を抑えたつもりだった。
それでも床を滑り、壁に当たって跳ね返る。
危うくカナに当たりそうになり、エンは慌てて操作を止めた。
戦闘は終わったが、呼吸が乱れていた。
「……転進、危ないですね」
「うん。ここで全力出したら止まらない」
カナは短く言う。
「武器が強いほど危ない場所、か」
エンは大球を見つめる。
これまで頼ってきた動きが、そのままリスクになっている。
E級でも、場所が変われば通用しない。
その事実がはっきりした。
奥の暗がりから、水音とは違う音が聞こえた。
足音。
しかも、複数。
エンとカナは視線を交わす。
「……戻りますか」
「うん。今日はここまで」
即断だった。
無理に進む理由はない。
二人は来た道を引き返し始める。
だがエンの頭の中では、すでに次のことを考えていた。
止まらない球。
滑る地面。
置けない戦場。
なら――どう戦うか。
E級はまだ終わっていない。
次に越える壁が、はっきりと姿を見せ始めていた。
いつもありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、
★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
本作は毎日更新中です。
明日もお待ちしています。
作者の新作です。
現代日本×ヒーローSF
「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」
蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。
もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。




