第42話 役割の分岐
毎日20時投稿
E級ダンジョンの奥に進むにつれて、空気が少しずつ変わっていった。
敵の数が増えているわけではない。
だが、戦闘の始まり方が違う。
「……また引きましたね」
ゴブリンが一体、こちらを確認するとすぐに距離を取った。
追えば戦える距離だ。だが、エンは追わない。
小球を前に置き、様子を見る。
しばらくして、別方向からもう一体が現れた。
挟む形だ。
「なるほど」
カナが小さく言う。
「待ってるね」
「ですね」
以前のように突っ込んでくる相手ではない。こちらの動きを見て、位置を変えている。
明確な連携というほどではないが、単独行動でもない。
E級の奥に来ている実感があった。
そのとき、通路の向こうから戦闘音が聞こえた。
金属がぶつかる音と、誰かの声。
「別のパーティですね」
「うん。近い」
少し進むと、三人組のパーティがゴブリンの群れと戦っていた。
数は六体ほど。
前衛の剣士が押し込んでいるが、横から回り込まれている。
「手、貸します?」
エンが小さく聞く。
「巻き込まれない位置なら」
カナは即答した。
エンは頷き、小球を横の通路へ滑らせる。逃げ道になりそうな場所を塞ぐように置く。
ゴブリンの一体がそちらへ動こうとして、止まった。
その瞬間、前衛の剣が振り抜かれる。
「お、助かった!」
短いやり取りだけで、戦闘は終わった。
「ありがとうな」
剣士が息を整えながら言う。
「最近、あいつら変な動きするんだよ」
「やっぱりそうなんですね」
「ああ。前より囲もうとしてくる」
軽く雑談を交わして、互いに別方向へ進む。
ほんの短い共闘だった。
だがエンは、少し考え込んでいた。
「……今の」
「うん」
カナが先に言う。
「役割分かれてた」
「ですよね」
前衛は正面を押さえ、後ろの二人が横から削る。
自分たちはそこに少し手を足しただけだった。
「前は、全部自分たちでやってましたけど」
「E級はそうもいかない」
カナは歩きながら続ける。
「人も増えるし、敵も増える。全部抱えたら崩れる」
エンは小さく頷いた。
確かにそうだ。
今までのように、自分が全部動かす必要はない。
むしろ、動かさない方がいい場面もある。
次の戦闘では、それを意識してみた。
ゴブリンが三体。
エンはすぐに攻めず、小球を一つだけ前に置く。
進路を制限するだけ。
すると、敵の動きが自然に偏る。
そこへ大球を軽く当てる。
崩れた一体をカナが仕留め、残りも短時間で片付いた。
「……楽ですね」
「うん」
カナが頷く。
「全部倒そうとしてないから」
その言葉に、エンは少し驚いた。
確かにそうだった。
今までは「自分が倒す」ことを前提に動いていた。
だが今は違う。
動きを止めるだけで、戦闘が終わる。
---
探索を続けながら、エンは考える。
E級に入ってから、戦い方が変わってきている。
強い技を使うことではなく。
どう戦闘を終わらせるか。
そこに意識が向いている。
「……カナ」
「なに」
「俺、前より戦ってない気がします」
カナは少し笑った。
「いいことじゃない」
「そうなんですか?」
「怪我しないし、疲れないし、早く終わる」
当然のように言う。
「職人からすると理想」
エンもつられて笑った。
そのとき、奥の通路から低い声が響いた。
ゴブリンのものだ。
だが、これまでより少しだけ長い。
「……今の」
「聞いた」
カナの声が低くなる。
単なる鳴き声ではない。
何かを知らせるような声だった。
次の瞬間、奥の暗がりで複数の影が動いた。
エンは無意識に大球へ手を向ける。
E級の戦いは、少しずつ形を変え始めていた。
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