第40話 使い方の再整理
毎日20時投稿
次にE級ダンジョンへ入ったとき、エンはいつもよりゆっくり歩いていた。
慎重になっている、というよりは――意識して速度を落としている。
これまでは、敵を見つけた瞬間に動いていた。早く終わらせることばかり考えていた。
だが今日は違う。
「……止めた」
前方へ出していた小球を、途中で静止させる。
岩陰から現れたゴブリンが、その球を避けるように動いた。
「今の、動かさなくてよかったですね」
「うん。もう止まってた」
カナは後ろから頷く。
「前はそこで押してたでしょ」
「ですね」
以前の自分なら、大球をすぐに出していた。
だが今は違う。
敵の動きが変わるのを待つ余裕があった。
ゴブリンが回り込もうとした瞬間、大球を軽く前に出す。
逃げ場を失った相手は体勢を崩し、カナのハンマーが短く振り下ろされた。
戦闘終了。
息は上がっていない。
体も重くない。
「……楽ですね」
思わず口に出る。
「無駄に動かしてないから」
カナはあっさり言った。
「前は全部自分でやろうとしてた」
エンは苦笑する。
「そんなつもりはなかったんですけど」
「見てれば分かる。球動かすの楽しくなってたでしょ」
否定できなかった。
転進を覚えてから、明らかに使いすぎていた。
少し進んだ先の広間で、三体のゴブリンが同時に現れる。
エンは小球を一つ、通路の中央に置いた。
動かさない。
それだけで、三体の動きが分かれる。
「……あ」
思わず声が漏れる。
以前なら、ここで慌てて操作していた。
だが今は、敵の方が勝手に動きを変える。
右へ回った一体に、大球を軽く当てる。残りの二体は小球を避けようとして動きが鈍る。
カナが一体を仕留め、残りをエンが押し出す。
短い戦闘だった。
「今のいいね」
カナが言う。
「球が仕事してる」
「……俺じゃなくて?」
「両方でしょ」
即答だった。
「ちゃんと置けてるよ」
エンは少しだけ照れくさくなって、視線を逸らす。
探索を続けながら、エンは自分の感覚の変化を確かめていた。
以前は、
どう動かすか。
そればかり考えていた。
今は違う。
どこに置くか。
いつ動かさないか。
考えることが変わっている。
そのせいか、戦闘が短く感じた。
帰り道。
別のパーティとすれ違う。
「最近よく見るな」
声をかけられ、エンは軽く頭を下げた。
「順調?」
「はい、なんとか」
「戦い方、変わったよな」
何気ない一言だった。
「前より落ち着いてる」
そう言われて、エンは少し驚いた。
自分では大きく変えたつもりはない。
ただ、使いすぎないようにしているだけだ。
だが外から見ると違うらしい。
「……そう見えますか?」
「うん。無理してない感じ」
それだけ言って、相手は手を振って去っていった。
ダンジョンを出たあと、エンは大きく息を吐いた。
疲れていない。
それが、はっきり分かる。
「……前より、強くなってますかね」
半分冗談のつもりで言う。
カナは少し考えてから答えた。
「強くなったっていうか」
腕を組む。
「やっと噛み合ってきた」
「噛み合ってきた?」
「スキルと、体と、考え方」
カナは歩きながら続ける。
「今までは力だけ先に増えてた。今は使う側が追いついてきた感じ」
エンはその言葉を反芻した。
追いついてきた。
確かにそんな感覚だった。
新しいことを覚えた高揚ではなく、ようやく自然に動けるようになった感覚。
「……じゃあ、ここからですね」
「そう」
カナは頷く。
「E級はここから」
夕方の光の中、二人はギルドへ向かって歩いていく。
焦りはなかった。
ただ、次に進めるという確かな実感だけがあった。
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