第4話 はじめての成果
新連載です。
10話まで一挙に公開します。
毎日17:30投稿
転石の洞に入るのは、これで二度目だった。
「……なんか、前より静かに歩けてません?」
エンが小声で言うと、カナは前を見たまま頷いた。
「慣れただけ。最初はみんな足音うるさいよ」
洞窟の中は相変わらず緩やかな傾斜が続いている。
だが、前回来たときほど歩きにくさは感じなかった。
どこに足を置けばいいか、なんとなく分かるようになっている。
エンの手元では、鉄球がゆっくりと浮かんでいた。
子供の頭ほどの大きさの、継ぎ目のない鉄の球。
光を鈍く反射するその表面は、相変わらず不自然なほど滑らかだ。
以前のように握りしめたりはしない。
軽く意識を添えるだけで、球はエンの周囲をゆっくりと巡る。
「止めなくなったね」
カナが言った。
「止めると焦るって分かったので」
「いいと思う」
短い言葉だったが、少しだけ嬉しかった。
そのとき、前方の地面がわずかに盛り上がった。
「来るよ」
カナの声と同時に、岩を割るようにして魔物が飛び出した。
ロックモール。
岩のような皮膚を持つ小型の魔物だ。
ずんぐりした体で、一直線に突進してくる。
「うわっ、速い!」
反射的に球を前へ出す。
だが今回は止めない。
傾斜に沿って転がす。
鉄球は地面を滑るように進み、ロックモールの進路へ入った。
鈍い音。
正面からぶつかった球は弾かれる。やはり装甲は硬い。
「正面はだめだよ!」
カナが即座に言う。
「お腹側が柔らかいから、弱点になる!」
「分かりました!」
球はそのまま止まらず、斜面を下って大きく回り込む。
エンは意識だけで軌道を修正する。
ロックモールは方向転換が遅い。
突進の勢いのまま、少し体勢を崩す。
そこへ。
横から転がってきた鉄球が、足元をすくうように当たった。
ぐらり、と巨体が傾く。
「今!」
カナがハンマーで地面を叩き、驚いたロックモールの動きが止まる。
その隙に、もう一度。
転がったままの鉄球が腹側に当たり、魔物はひっくり返った。
しばらく足をばたつかせた後、やがて動かなくなる。
静寂が戻った。
「……倒せた?」
「うん。倒せてる」
カナがしゃがみ込み、慣れた手つきで魔物を確認する。
「ちゃんと魔石もある。ロックモールの初討伐、おめでとう」
エンは思わず息を吐いた。
疲れたというより、力が抜けた感覚だった。
「……なんか、今回はちゃんと戦えましたね」
「最初から無茶してないから」
カナは淡々と言う。
「ここ、転がる場所多いし。相性いいんだと思う」
エンは足元を見る。
確かに、このダンジョンでは球は自然に動き続ける。自分が無理に力を入れる必要がない。
「俺、殴ってないですね」
「うん」
「でも勝てました」
その事実が、妙に嬉しかった。
ダンジョンを出た後、二人はギルドで素材を換金した。
金額は多くない。食事を何度かできる程度だ。
それでも、受付から硬貨を受け取ったとき、エンはしばらくそれを眺めてしまった。
「……これ、自分で稼いだんですよね」
「そうだね」
カナも少しだけ笑う。
「冒険者って感じする?」
「します」
即答だった。
大金ではない。
だが、自分のスキルで、誰かと組んで、ダンジョンに潜って。
その結果として手に入れた金だ。
「……また潜りましょう」
エンが言うと、カナは少し考えてから頷いた。
「じゃあ次は、少し重い球も試してみる?」
「重いの、動かせますかね」
「分からないわよ。だから試すんでしょ」
その言葉に、エンは笑った。
まだ強くはない。
有名でもない。
けれど。
自分たちのやり方は、確かに前に進んでいる。
転石の洞へ続く道を見ながら、エンは次の探索のことを考えていた。
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