第37話 積みすぎた力
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E級ダンジョンに潜り始めてから、数日が経った。
探索は順調だった。
危険な場面はある。だが、崩れることはない。
敵の数が増えても、小球で進路を制限し、大球で流れを切る。それだけで戦闘は自然と整った。
エンは、自分でも分かるくらい調子が良かった。
「左から来ます」
通路の奥から現れたゴブリンに向けて、小球を滑らせる。
動きが止まったところへ大球を転がす。
鈍い音が響き、敵は壁際へ弾かれた。
間髪入れずにもう一体。
今度は転進を乗せる。
回転を帯びた鉄球が一直線に走り抜け、まとめて二体を吹き飛ばした。
「……今の、使わなくてもよかったんじゃない?」
後ろでカナが言う。
「え?」
「普通に倒せたでしょ」
「ああ……」
言われてみれば、そうだった。
だが、転進を使った方が早い。
それに――。
「なんか、気持ちいいんですよね」
エンは少し笑った。
回転が乗った瞬間の感覚。球が伸びていく手応え。狙った通りに敵が崩れる感覚。
成功体験が、まだ新しかった。
カナは何も言わなかったが、少しだけ視線を落とした。
探索は続く。
E級の敵はF級よりも粘る。数も多い。
だが、それ以上に、エンの動きが早くなっていた。
敵を見た瞬間に球を動かす。
考える前に体が動く。
戦闘が短く終わる。
だから、次も早く終わらせたくなる。
結果として――転進の回数が増えていった。
休憩のために広間の端へ腰を下ろしたときだった。
「……疲れてる?」
カナが言う。
「え?」
「呼吸が、速いよ」
言われて初めて気づく。
息が少し上がっていた。
「いや、まあ……ちょっと動いたからですかね」
「いつもより多いんだけど」
エンは曖昧に笑ってごまかした。
確かに少し疲れている。でも、戦闘に支障が出るほどではない。
それよりも。
「前より楽なんですよ」
「楽?」
「はい。前はもっと考えてましたけど、今は……勝手に動く感じで」
言葉にしてから、自分でも少し不思議に思った。
楽なのに、疲れている。
理由は分からない。
カナはしばらく黙っていたが、それ以上は何も言わなかった。
帰還途中。
別のパーティとすれ違う。
「あ、球の」
声をかけられ、エンは軽く会釈する。
「最近よく見るな。E級慣れた?」
「まだです」
「でも早いよな。戦闘終わるの」
軽い雑談だった。
以前のような珍しさではなく、普通の冒険者同士の会話。
それが少し嬉しい。
「ありがとうございます」
そう答えて別れる。
そのまま歩き出したとき、足がわずかに重く感じた。
ほんの一瞬。
気のせいだと思える程度だった。
ダンジョンを出た頃には、夕方になっていた。
外の空気を吸い込んで、エンは大きく伸びをする。
「……ちょっと疲れましたね」
「うん」
カナは短く答える。
「明日は、休む?」
「いや、大丈夫です」
即答だった。
E級に入ってからも、戦える実感がある。
止まりたくなかった。
「もう少し慣れたいですし」
カナは何も言わない。
ただ、エンの歩幅に合わせて歩く。
その横で、エンは気づかないまま、少しだけ足を引きずっていた。
転進の回転が、まだ体に残っているような感覚だった。
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