第36話 はじめてのE級
毎日17:30投稿
E級ダンジョンの入口は、G級やF級とは明らかに空気が違っていた。
危険な気配があるわけではない。だが、静かだった。
談笑している冒険者はいるが、声はどこか抑えられている。
装備の確認を何度も繰り返す者、地図を広げて仲間と話し込む者。
誰もが、これまでより一段上の場所に来ていることを理解しているようだった。
「……人、多いですね」
エンは周囲を見回しながら言った。
「うん。E級は同時に入る人、多いから」
カナが短く答える。
E級ダンジョンからは、複数のパーティが同じ時間帯に潜ることが珍しくない。
インスタンスではあるが、探索範囲が広く、途中で他の冒険者と遭遇することもあると聞いていた。
F級までは、ほとんど自分たちのペースで進めていた。
だがここからは違う。
「……なんか、ちょっと緊張しますね」
「顔に出てる」
「出てます?」
「うん」
カナはいつも通りだった。
その様子を見て、エンは少しだけ肩の力を抜く。
腰のマジックバックの重みを確かめる。中には、小球、大球、そして巨大球。いつもと同じ装備だ。
変わったのは、場所だけ。
「行きましょうか」
カナが頷く。
二人はE級ダンジョンへと足を踏み入れた。
内部は、岩肌がむき出しの洞窟だった。
F級で潜っていた洞窟型と似ているが、通路が広い。
天井も高く、視界の先が暗く沈んでいる。
音が、よく響いた。
「……広いですね」
「横穴が、多いわね」
カナが周囲を見回す。
その言葉通り、いくつもの分岐が見える。敵の接近に気づきにくい構造だ。
エンは小球を一つ、前方へ浮かせた。
滑らかな金属球が、静かに先へ進む。
反応はすぐに来た。
岩陰から飛び出してきたのは、ゴブリンだった。
棍棒を振り上げ、叫び声を上げる。
「来ます」
エンは小球を横に流す。
ゴブリンの進路を塞ぐように転がすと、相手の動きが一瞬止まる。
そこへ大球。
軽く押し出す。
鉄の塊が一直線に進み、ゴブリンを弾き飛ばした。
鈍い音が響き、敵はそのまま動かなくなる。
もう一体。
今度はカナが前に出て、短剣で足を払う。
体勢を崩したところへ、小球がぶつかり、戦闘は終わった。
「……あ」
エンが思わず声を漏らした。
「どうしたの」
「いや……」
思ったより、あっさり終わった。
F級と比べて敵が弱いわけではない。むしろ、体格は少し大きいくらいだ。
だが。
「動きが、見えるようになってます」
自然に球が動いた。
考えるより先に、体が動いていた。
カナが少しだけエンを見る。
「前より早くなったんじゃない」
「……ですね」
エンは少し笑った。
転進を使うまでもない。普通に動かすだけで、戦闘が整う。
F級の最後で感じた感覚が、そのまま続いていた。
しばらく進んだところで、別の足音が聞こえた。
通路の向こうから、三人組のパーティが現れる。
「あ、どうも」
軽く手を上げられ、エンも慌てて頭を下げた。
同年代くらいの冒険者だった。
視線が、自然とエンの球に向く。
「……ああ、球のやつか」
悪意のない声だった。
「変わった戦い方してるよな」
「は、はい。まあ……」
なんと答えていいか分からず、曖昧に笑う。
相手はそれ以上何も言わず、手を振って別の通路へ消えていった。
以前のような笑いはなかった。
ただ、覚えられているだけ。
「……なんか、普通でしたね」
「うん」
カナは短く答える。
「もう、珍しくないんじゃない」
エンは少しだけ考えた。
不遇スキルだと思っていた球術が、こうして普通に受け入れられている。
それが少し、不思議だった。
次の広間に出たとき、ゴブリンが三体、同時にこちらへ向かってきた。
エンは反射的に大球へ手を向ける。
回転を乗せる。
転進。
鉄球が唸るように進み、三体まとめて弾き飛ばした。
止まらない。壁際まで一直線に走り、鈍い音を立てて止まる。
「……強いですね」
思わず口に出る。
「うん」
カナが答える。
「でも、使いすぎないこと」
「……はい」
返事をしながらも、エンは少しだけ胸が高鳴っていた。
強くなっている。
はっきりと分かる。
E級の空気の中で、自分の力が通じている。
その実感が、嬉しかった。
まだ始まったばかりなのに。
エンはもう次の戦闘を探していた。
いつもありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、
★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
本作は毎日更新中です。
明日もお待ちしています。
作者の新作です。
現代日本×ヒーローSF
「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」
蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。
もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。




