第35話 転進
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街の外れにある採石場跡は、人がほとんど来ない場所だった。
平らな地面と、緩やかな傾斜。転がり方を見るにはちょうどいい。
エンは大球の前に立ち、深く息を吐いた。
「……よし」
押す。
大球が転がる。
途中で減速し、止まる。
「違うな……」
三度目だった。
強く押しても伸びない。弱く押せば途中で止まる。
静床の遺跡で感じた、あの止まらない感覚が再現できない。
「休む?」
後ろからカナが声をかける。
「いや、もう少しやります」
エンは首を振った。
ここまで来て、偶然のままにしたくなかった。
何度も試す。
押し方を変える。
立ち位置を変える。
力の入れ方を変える。
だが結果は同じだった。
「……なんでだ」
大球を見つめる。
形は同じだ。重さも同じ。
違うのは、自分の動きだけ。
(強く押したわけじゃなかった)
あの時は、もっと自然だった。
押したというより――。
前に逃げていく感覚。
「……逃げてた?」
エンは小さく呟いた。
もう一度、大球の前に立つ。
今度は、押そうとしない。
転がそうとする。
中心ではなく、少し外側へ力をかける。
大球が動く。
回る。
音が変わる。
「……!」
伸びた。
今までよりも、明らかに長く。
減速が遅い。
狙った場所まで転がり、静かに止まった。
エンはしばらく動かなかった。
「……今の」
もう一度。
同じように。
押さない。転がす。
回転を先に作る。
大球が一直線に進む。
同じ場所で止まる。
再現できた。
「……できた」
思わず声が漏れる。
胸の奥が熱くなる。
偶然じゃない。
自分でやった。
何度も失敗して、やっと届いた。
「カナ!」
「うん、同じだった」
カナは距離を見ながら頷く。
「さっきと同じ止まり方」
その一言で、実感が一気に湧いた。
エンは思わず笑った。
「これ、名前つけません?」
「名前?」
「はい」
少し考えて、口に出す。
「……転進、とか」
自分でも少し子供っぽいと思った。
でも、今はそれが嬉しかった。
カナは少しだけ笑う。
「いいんじゃない?」
あっさりした返事だった。
それが逆に、現実になった気がした。
夕方まで、何度も繰り返した。
成功する回数が増える。
大球が思った通りに伸びる。
巨大球でも試す。
重い分、さらに止まりにくい。
「……強いですね、これ」
「うん。でも疲れるでしょ」
「まあ、ちょっと」
それでも、顔は笑っていた。
強くなった。
はっきりとそう思えた。
日が沈みかけたころ。
最後にもう一度、大球を転がす。
滑らかに進み、静かに止まる。
エンは満足そうに息を吐いた。
「……できましたね」
「うん」
二人で顔を見合わせて、少しだけ笑う。
誰も見ていない場所で。
誰にも知られていないまま。
新しい技が、一つ生まれた。
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