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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
1章:球術のはじまり

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第28話 緑層の樹界

毎日17:30投稿

静床の遺跡を攻略してから、数日が経っていた。


ギルドの掲示板の前で、エンは新しい依頼票を見上げている。


「……ここですね」


紙に書かれた名前を読み上げる。


――緑層の樹界。


F級ダンジョンの中でも、少し特殊な場所だと聞いていた。


「高低差が多いって」


カナが言う。


「足場も安定してないらしい」


「洞窟とは違うんですね」


「うん。森みたいな感じ」


エンは少しだけ考えた。


平坦な床だった静床の遺跡とは、正反対だ。


だが、今はむしろ楽しみだった。


巨大球の手応えが、まだ体に残っている。


「行ってみましょう」


「いいよ」




樹界の入口を抜けた瞬間、空気が変わった。


湿った匂い。濃い緑。天井近くまで伸びた木の根が、複雑に絡み合っている。


「……すごいですね」


エンは思わず見上げた。


地面は完全な平地ではない。緩やかな坂や段差が連続している。


ところどころに大きな根が張り出し、自然の階段のようになっていた。


「転がりそうですね」


「うん」


カナも周囲を見回している。


静床の遺跡とは違う意味で、球の動きが読みにくい場所だった。


最初に現れた魔物は、小型の獣型だった。


素早く、低い位置を走る。


エンは小球を動かす。


当たる。


だが、斜面に当たった小球が予想より大きく跳ねた。


「あ」


軌道がずれる。


獣はその隙に距離を取った。


「……難しいですね」


「床が平らじゃない」


カナが言う。


確かにそうだった。


今までなら読めた転がり方が、ここでは変わる。少しの傾きで、球の進む方向がずれる。


大球を出す。


置く。


だが、ゆっくりと転がり始めた。


「……止まらない」


エンは慌てて操作を戻す。


完全に制御できないわけではない。だが、余計な力を使う。


「使いづらいですね」


「うん」


カナの声は落ち着いていた。




さらに奥へ進む。


段差の多い広場に出た。


ここなら、とエンは思った。


「ちょっと試してみます」


巨大球を取り出す。


地面に置いた瞬間、わずかに動いた。


止まる。


だが、完全ではない。


ゆっくりと、坂の方向へ転がろうとする。


「……やっぱり」


エンは少し笑った。


重いほど、動き出したら止まりにくい。


静床の遺跡では、それが強さだった。


「行きます」


巨大球を前に送る。


転がる。


獣型の魔物を弾き飛ばす。


強い。


だが次の瞬間。


斜面に入った巨大球が、予想以上の速度で加速した。


「……速い!」


エンは思わず声を上げる。


操作で止める。止まる。


だが、今までより明らかに制御に力が要った。


静かになる。


「……今の」


「うん」


カナが短く答える。


「速かった」


エンは巨大球を見つめた。


さっきの感覚は、静床の遺跡とは違う。


押していたのではない。


勝手に速くなった。




帰り道。


エンは少しだけ考え込んでいた。


「強いのは、間違いないですね」


「うん」


「でも……」


言葉を探す。


「思った場所に止まらないですね」


カナは頷いた。


「ここ、落ちるから」


それがすべてだった。


平らな床では、止まらないことが強さだった。


だがここでは違う。


止まらないことが、危険になる。


エンは巨大球をマジックバックに戻す。


まだ、分かっていない。


だが確かに――。


静床の遺跡で手に入れた強さは、この場所では少し形を変えていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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