第29話 制御できない力
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緑層の樹界に入って三度目だった。
最初に感じた違和感は、はっきりした問題に変わっていた。
「……やっぱり、動きすぎますね」
エンは大球を戻しながら言った。
斜面に触れた瞬間、球が思った以上に進む。
止めることはできる。
だが、そのたびに余計な集中力を使う。
「うん」
カナは短く答えた。
ここでは、何もしないと球が動く。
それが今までと決定的に違った。
段差のある広場で、獣型の魔物が三体現れる。
素早い。
上下に動き回る。
エンは小球を動かす。
一体に当たる。
だが、当たった小球が斜面を滑り、予想外の方向へ流れた。
「あ」
エンはすぐに戻す。
問題はない。
だが、今までなら起きなかった動きだった。
「……読めないですね」
「うん」
カナは周囲を見ている。
足場が複雑で、どこに傾きがあるか分かりにくい。
少し奥へ進んだときだった。
開けた斜面に出る。
敵は一体だけ。
「ここなら」
エンは巨大球を取り出した。
広さもある。問題ないと思った。
前に送る。
巨大球が転がる。
獣型を弾き飛ばす。
そのまま、斜面へ入った。
「……速い」
予想より加速する。
エンは止めようとする。
だが、回転が乗っている。
重い。
止まりきらない。
巨大球が大きく弧を描き、横方向へ流れた。
「エン!」
カナの声。
エンは慌てて操作を強める。
ようやく止まった。
静寂。
ほんの数秒だったが、嫌な汗が背中を流れる。
「……今の」
エンは息を吐いた。
「危なかったですね」
「うん」
カナの声は落ち着いているが、少しだけ硬かった。
巨大球は何もなかったかのように静かに止まっている。
だが、もし位置が違っていたら。
もし足場が狭かったら。
そう考えると、少しだけ怖くなった。
その日は、巨大球をしまったまま進んだ。
小球と大球だけで戦う。
時間はかかるが、安定している。
危なくない。
ダンジョンの出口が見えてきたところで、エンが口を開いた。
「……強くなったと思ってたんですけど」
「うん」
「なんか、逆に難しくなりました」
正直な感想だった。
静床の遺跡では、巨大球は明らかに強かった。
だがここでは違う。
強いほど、扱いづらい。
「場所が違うから」
カナが言う。
「同じじゃない」
エンは小さく笑った。
確かにそうだ。
同じ戦い方が、どこでも通じるわけではない。
「……でも」
エンは少しだけ前を見た。
「使えないのは、もったいないですね」
まだ諦めるつもりはない。
あの押し切る感覚は、確かに強かった。
ただ、今はまだ――。
使い方が分かっていないだけだ。
緑層の樹界の奥から、風が抜ける音がした。
強くなったはずの力は、まだエンの手に馴染んでいなかった。
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