第22話 新しい荷物
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穿穴の洞から戻った翌日。
ギルドの中はいつもと変わらない賑わいだった。
依頼掲示板の前で言い合う声、報告を終えた冒険者の笑い声。
何も特別なことは起きていない。
だが、エンにとっては少しだけ違う日だった。
「……こんなになるんですね」
受付のカウンターに置かれた革袋を見て、思わず声が漏れる。
ホブゴブリンの素材換金額は、これまでとは明らかに違っていた。
G級の頃とは比べものにならない。
「F級ボス素材ですからね」
受付の女性が事務的に答える。
「安定して持ち帰れるなら、次の装備を考えてもいい頃です」
「次の装備?」
エンが首を傾げると、受付はカウンターの横を軽く示した。
そこには、革製の袋が並んでいる。見た目は普通の荷袋だ。
「マジックバックです。容量拡張の簡易型ですけど、F級なら十分ですよ」
エンは少し驚いてカナを見る。
カナはすでに袋を見ていた。
「……あった方がいいかも」
「やっぱりですか?」
「素材が、増えるから」
確かに、ここ最近は持ち帰りに苦労することが増えていた。
鉄球も重いし、今後はもっと素材を持ち帰ることになる。
少しだけ迷ってから、エンは頷いた。
「じゃあ、これを」
ギルドを出たあと、エンは何度も新しい袋を触っていた。
「見た目、普通ですね」
「普通でいいんだよ」
カナが言う。
「目立たない方がいい」
袋自体は軽い。だが中に入れた荷物の重さは、ほとんど感じない。
まだ慣れない感覚だった。
「これで、だいぶ楽になりますね」
「うん」
カナは少しだけ考えてから言った。
「……これなら作れるね」
エンは足を止める。
「何がです?」
カナは少しだけ間を置いてから答えた。
「もっと大きいやつ」
「もっと……?」
「球」
エンは一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「前から作ろうと思ってたんだよね」
さらりと言う。
「いつか、止められない相手が出るかもしれないと思ってたから」
エンは思わず笑った。
「もう十分大きいと思ってましたけど」
「今のは止めるための大きさ」
カナは歩きながら続ける。
「次は、止まらないための大きさ」
その言葉に、エンは少しだけ想像する。
今よりも大きい鉄球。
重い塊。
転がったら、きっと止まらない。
「……それ、使えますかね」
「分からない」
カナは正直に言った。
「でも、エンなら動かせるでしょ」
当然のような言い方だった。
エンは苦笑する。
自分でも、否定はできなかった。
鍛冶場に戻ると、カナはすぐに炉へ火を入れた。
いつもの作業だが、どこか空気が違う。
「どれくらいの大きさなんです?」
「これくらい」
カナが手を広げる。
エンは目を瞬かせた。
「……大きくないですか?」
「うん」
カナは頷く。
「だから今まで作らなかった」
マジックバックがなければ、持ち運びもできない。ダンジョンに持ち込むことも現実的ではない。
だが今は違う。
条件が揃った。
「完成しても、すぐ使えるか分からないよ」
「まあ、そうですよね」
エンは笑う。
それでも、少しだけ胸が高鳴っていた。
単純に、強そうだったからだ。
炉の火が強くなる。
溶けた鉄が静かに流れ、形を作っていく。
カナの均形鍛冶は派手ではない。ただ、無駄がない。歪みも、迷いもない。
時間をかけて、ゆっくりと形が整えられていく。
やがて。
作業台の上に、それは置かれた。
直径八十センチ。
継ぎ目のない、完全な球体。
表面は滑らかで、光を静かに反射している。
武器には見えない。
ただの金属の塊だった。
「……きれいですね」
エンが思わず言う。
カナは短く答えた。
「形はね」
その言葉の意味を、エンはまだ理解していなかった。
だが――。
これを動かしたらどうなるのか。
それを考えるだけで、少しだけ楽しみだった。
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