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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
1章:球術のはじまり

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第21話 穿穴の主

毎日17:30投稿

ホブゴブリンは動かなかった。


盾を構え、低く腰を落としたまま、エンの動きを見ている。


無駄に踏み込んでこない。


距離を保ち、こちらの出方を待っている。


群れを失っても、その動きは落ち着いていた。


「……強いですね」


エンが小さく言う。


「うん」


カナも短く答える。


今までのゴブリンとは明らかに違う。焦らない。隙を見せない。


だが――。


怖くはなかった。


やることは、もう決まっている。


エンは大球をゆっくりと置いた。


ホブゴブリンの正面ではない。少し横。逃げようとしたときに回り込む位置。


相手の視線がわずかに動く。


気にしている。


(いい)


小球を動かす。


低く、ゆっくり。


ホブゴブリンが盾を構え直す。真正面からは通さないという意思が見える。


エンは無理に当てない。


距離を詰める。


一歩。


また一歩。


ホブゴブリンが横へ動く。


その先には、大球がある。


足が止まる。


ほんの一瞬。


「……今」


カナの声だった。


エンは反射的に小球を横から送り出す。


ホブゴブリンが盾で受ける。だが、体勢が少しだけ崩れる。


重い音が響く。


完全には倒れない。


だが、位置がずれた。


エンは追わない。


小球を戻す。


もう一度、同じ形を作る。


大球が逃げ道を制限する。


ホブゴブリンが動く。


避ける先は、もう限られている。


「……落ち着いて」


カナの声が背中から届く。


焦る必要はない。


強く当てる必要もない。


位置だけを動かす。


ホブゴブリンが踏み込もうとした瞬間、足がわずかに滑った。


床の小さな段差。


その瞬間だった。


小球が低く転がる。


脚に当たる。


巨体が揺れる。


次の瞬間、体勢が崩れた。


倒れた。


地面が震える。


エンは間を置かず、小球をもう一度送り出す。


グシャリという、湿った鈍い音。


ホブゴブリンの動きが止まった。


静寂が戻る。




しばらく、誰も動かなかった。


エンは小球を戻し、ようやく息を吐いた。


「……倒せ、ましたね」


「うん」


カナが静かに答える。


大きな達成感というより、静かな実感だった。


やることをやった結果、そうなっただけ。


「……強かったですけど」


エンは倒れたホブゴブリンを見る。


「やることは同じでした」


「うん」


カナが頷く。


「場所を決めただけ」


その言葉に、エンは小さく笑った。


本当にそうだった。


強い敵だった。だが、特別なことはしていない。


危なくならない場所を作って、そこへ動かしただけだ。




帰り道。


穿穴の洞の空気は、来たときよりも軽く感じられた。


「……終わりましたね」


「うん」


F級ダンジョン一つ目。


特別な技を覚えたわけではない。劇的に強くなったわけでもない。


ただ、自分たちの戦い方が通用した。


それだけだった。


エンは小球を浮かせながら、ふと呟く。


「次は、もう少し広い場所でも試してみたいですね」


カナが少しだけ首を傾げる。


「広い場所?」


「はい。ここ、通路が多かったので」


もっと動ける場所なら、違うこともできるかもしれない。


まだ形になっていない何かが、頭の片隅にあった。


「いいと思う」


カナはそう言った。


二人は並んで洞窟を出る。


穿穴の洞の主は倒れた。


そして、二人の冒険は次の段階へ進み始めていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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