第19話 分断
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穿穴の洞の奥へ向かうのは、これで三度目だった。
前回、前々回はホブゴブリンと戦わなかった。ただ、何が足りないのかを確かめただけだ。
だから今日は、少しだけ違う。
「……追いかけません」
入口を抜けてすぐ、エンはそう言った。
「うん」
カナは頷く。
今回の目的は倒すことではない。動きを変えることだ。
浅い層を抜け、気配が濃くなる場所まで進む。やがて、あの開けた空間が見えてきた。
「来ます」
岩陰からゴブリンが現れる。三体。距離を保ったまま、様子を窺っている。
エンはすぐに小球を動かさなかった。
代わりに、大球を取り出す。
通路の分岐の手前。
完全に塞がない位置に置く。
「……ゴギャ」
ゴブリンが鳴いた。
動きが止まる。
今までと違う配置だった。
横へ回ろうとした個体が、進路を変える。
エンは小球をゆっくり前に出す。
追わない。
押さない。
ただ距離を詰める。
ゴブリンが下がる。
その先は、分岐の片側だけが開いた通路だった。
(……そうか)
エンはようやく理解した。
今まで、自分は敵を追っていた。
だが今は違う。
行ける場所を減らしている。
ゴブリンが一体、分岐の奥へ下がった。
残りの二体は別方向へ逃げる。
分かれた。
「今だ!」
小球を転がす。
一体が避ける。だが、もう一体が動けない。通路が狭い。
短い音が響き、一体が崩れた。
残りはすぐに撤退する。
追わない。
エンは小球を戻した。
「……分かれましたね」
「うん」
カナが頷く。
「さっきまで、固まってたのに」
エンは少しだけ笑った。
倒した数は多くない。だが、手応えが違う。
「全部相手にしなくていいんですね」
「うん」
カナは当然のように言う。
「一体ずつなら、危なくない」
その通りだった。
群れが怖いのは、同時に動くからだ。
なら、動けなくすればいい。
さらに奥へ進む。
今度は四体。
だがエンは慌てない。
大球を先に置く。
逃げ道を一つ減らす。
小球で距離を詰める。
ゴブリンたちは互いに鳴き声を交わしながら動くが、次第に位置がずれていく。
連携が合わない。
焦りが見える。
やがて一体が孤立した。
短い衝突音。
崩れる。
残りはすぐに奥へ退いた。
深追いはしない。
静かになった通路で、エンは息を吐いた。
「……できてますね」
「うん」
カナは少しだけ満足そうだった。
「これまでとは逆」
「はい」
過去の戦いは、自分たちが安全な場所に固定されていた。
今日は違う。
相手が、安全な場所へ逃げたつもりで、分かれていった。
流れが変わっている。
「……次は」
エンは奥を見る。
気配がある。
あの低い声の主がいる場所だ。
「たぶん、あいつですね」
「うん」
カナは短く答える。
まだ戦わない。
だが、もう分かっている。
群れは崩せる。
あとは――。
「一体になれば、同じですね」
エンは小球を静かに浮かせ直した。
穿穴の洞の奥は、もう遠く感じなかった。
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