第18話 流れの逆転
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穿穴の洞の奥へ向かう足取りは、これまでより慎重だった。
焦りはない。だが、前に進む理由ははっきりしている。
前回は、何もできなかった。
だから今回は、確かめに来た。
「今回も、無理だと思ったら、すぐ戻ります」
「うん」
カナの返事は変わらない。短く、迷いがない。
浅い層を抜けると、空気が少し変わる。鳴き声が減り、代わりに気配だけが残る。
見られている。
エンは小球を浮かせたまま歩いた。
やがて、前に見覚えのある空間が現れる。
開けた場所。
そして――。
「ゴギャ」
低い声。
岩陰からゴブリンが現れる。二体、三体。距離を保ち、すぐには動かない。
エンは大球を取り出した。
今度は先に置く。
背後へ回り込める通路を塞ぐ位置。
ゴブリンたちの動きが一瞬止まった。
(……ここまではいい)
小球をゆっくり動かす。
ゴブリンが下がる。
だが、それ以上は動かない。
逃げない。
誘われない。
そして奥から、あの影が現れた。
ホブゴブリン。
前回と同じ個体だ。剣と盾を持ち、ゆっくりと前へ出てくる。
低い声で何かを発すると、周囲のゴブリンが位置を変えた。
だが今回は、散らない。
一定の距離を保ったまま、止まる。
「……動かない」
エンは小さく呟いた。
小球を横から回す。
避けられる。
だが、追えない。
追おうとすると、別の個体が前に出る。
形が崩れる。
ホブゴブリンは前に出てこない。ただ、こちらの動きを見ている。
(……違う)
前回よりも分かる。
球を警戒しているわけじゃない。
安全な場所から動かない。
それだけだ。
エンは小球を止めた。
すると、ゴブリンたちも動かない。
睨み合いが続く。
時間だけが過ぎていく。
「……だめですね」
エンが小さく言った。
「うん」
カナもすぐに頷く。
戦えないわけではない。だが、このままでは崩れない。
主導権がこちらにない。
それがはっきり分かった。
エンは小球を戻し、大球を回収する。
背を向けても、追撃はない。
ただ視線だけがついてくる。
安全な距離まで戻ったところで、エンは大きく息を吐いた。
「……前より分かりました」
「何が?」
「俺たち、動かしてるつもりでしたけど」
言葉を探す。
「動かされてました」
カナは少しだけ考えてから頷いた。
「うん」
短い肯定だった。
「安全な場所にいさせられてた」
エンは思い返す。
球を動かすたびに、相手は危なくない位置へ下がっていた。
そしてその位置から、崩れなかった。
「……じゃあ」
エンは小さく笑う。
「次は逆ですね」
「うん」
カナもわずかに笑った。
「動く場所を、こっちが決める」
その言葉で、ようやく形が見えた気がした。
今までは、相手を追っていた。
これからは違う。
逃げる先を、先に決める。
穿穴の洞の出口が見えてくる。
まだ勝ててはいない。
だが、負けている感じもなかった。
次にここへ来るときは、きっと違う形になる。
エンはそう確信していた。
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