第17話 統率者
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穿穴の洞の奥へ進むのは、久しぶりだった。
浅い層での動きには、もう迷いがない。大球を置き、小球で動きを制限する。危険になる前に形を整える。
だが今日は、少しだけ先へ進むつもりだった。
「無理だと思ったら戻ります」
「うん」
カナの返事はいつも通り短い。
奥へ進むほど、ゴブリンの気配は減っていった。代わりに、視線のようなものを感じる。
見られている。
だが、襲ってこない。
「……静かですね」
「うん」
カナは周囲を警戒したまま歩いている。
しばらく進んだところで、開けた空間に出た。
その瞬間だった。
「ゴギャ!」
鋭い声が響く。
左右の岩陰から、ゴブリンが現れる。三体。距離を保ち、すぐには近づかない。
エンは小球を浮かせ、大球を取り出す。
だが――。
ゴブリンたちは動かなかった。
前に出てこない。
ただ、こちらを見ている。
「……変ですね」
エンが小さく言う。
今までなら、ここで横に回ろうとする個体がいた。だが今日は違う。
待っている。
何かを。
そのとき、奥の暗がりから影が動いた。
ゆっくりと歩いてくる。
他の個体よりも一回り大きい体。手には粗いが、明らかに武器と分かる剣。
盾も持っている。
「……ホブゴブリン」
エンが息を呑む。
低い声で何かを発すると、周囲のゴブリンたちが位置を変えた。
無駄な動きがない。
距離を詰めない。
逃げもしない。
「……指示してる」
カナが言った。
エンは頷く。
今までとは明らかに違う。
相手は球を警戒しているだけじゃない。こちらの動きを見て、動かないことを選んでいる。
小球を動かす。
ホブゴブリンが一歩横にずれる。
同時に、他のゴブリンも位置を変える。
隙が生まれない。
(……無理だ)
直感だった。
戦えないわけじゃない。だが、今の自分たちでは崩しきれない。
「戻りましょう」
エンが言う。
カナはすぐに頷いた。
「うん」
小球を下げ、大球を回収する。
背を向けても、ゴブリンたちは追ってこなかった。
ただ、見送っている。
それが余計に不気味だった。
安全な距離まで戻ってから、エンはようやく息を吐いた。
「……強いですね」
「うん」
カナも短く答える。
「でも、無理じゃないと思う」
エンは少し驚いてカナを見る。
「そう思います?」
「うん」
少しだけ考えてから続ける。
「今は、動かされてるだけだから」
その言葉の意味を、エンはすぐには理解できなかった。
だが確かに、さっきの戦闘はそうだった。
球を動かしていたはずなのに、主導権は向こうにあった。
「……次は、こっちが動かさないとですね」
「うん」
二人は出口へ向かって歩き出す。
穿穴の洞の奥には、明確な壁があった。
だが、それは越えられないものではない。
まだ、準備が足りないだけだと――。
エンはそう思っていた。
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