第15話 流れを作る
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ゴブリンを一体倒してから、数日が経っていた。
穿穴の洞に入る足取りは、以前よりも少しだけ軽い。
まだまだ慣れたわけではない。だが、何をすれば危なくならないかが分かってきた。
エンは小球を浮かせたまま、前方を見据える。
「……前より、近いですね」
「うん」
カナが頷く。
ゴブリンの距離の取り方が変わっていた。以前は遠巻きに様子を見ていたのに、今は一定の距離まで近づいてくる。
警戒はしているが、逃げきれると分かっている動きだ。
「試されてる感じですね」
「たぶん」
カナは周囲を見回した。
「数も増えてる」
岩陰の向こう、低い鳴き声が重なる。
今回は三体。
エンはすぐに小球を動かさなかった。
代わりに、大球を取り出す。
通路の中央より少し奥。完全には塞がない位置に置く。
ゴブリンたちが止まる。
進むか、下がるか、判断を迷っている。
(……ここまでは、いつも通り)
エンは小さく息を吐き、小球をゆっくり動かした。
一体が避ける。
もう一体が横へ回る。
だがその先には、大球がある。
進めない。
「ゴギャ」
短い鳴き声。位置を変えようとする。
エンは追わない。
ただ、小球を動かして距離を詰める。
ゴブリンが下がる。
さらに下がる。
「……あ」
エンは気づいた。
自分が追い込んでいるのではない。
相手が、安全だと思う方向に動いている。
そしてその先に、逃げ場がない。
小球をもう一度転がす。
ゴブリンが壁際へ寄る。
動きが止まった。
鈍い音が響く。
一体が崩れ落ちた。
残りの二体はすぐに距離を取り、奥へ逃げていく。
追わない。
エンは球を戻し、ゆっくりと息を吐いた。
---
「……今の戦い」
エンが言いかけると、カナが先に口を開いた。
「ちゃんと追い込んでたね」
「はい」
自分でも驚いていた。
当てようとしたわけではない。ただ、危なくない位置を保っていただけだ。
結果として、相手の動きが限られていった。
「倒すっていうより……」
「流れを作ってる」
カナの言葉に、エンは頷く。
まさにそれだった。
球を当てることが目的じゃない。
動きの流れを決めている。
帰り道、エンは考え込んでいた。
「俺のスキルって……」
言葉を探す。
「やっぱり、変ですよね」
「今さら?」
カナが少し笑う。
「最初から普通じゃないと思ってたけど」
「いや、そういう意味じゃなくて」
エンは頭をかいた。
「強いっていうより……戦い方が違うというか」
剣士のように斬るわけでもない。魔法のように撃ち抜くわけでもない。
敵を倒す前に、動きを変えている。
「珍しいのは分かってましたけど」
エンは小さく息を吐く。
「こういう使い方になるとは思ってなかったです」
カナは少しだけ考えてから言った。
「でも、合ってると思う」
「合ってますか?」
「うん」
迷いのない声だった。
「無理してないから」
その言葉に、エンは少しだけ肩の力が抜けた。
確かにそうだった。
力で勝とうとしているわけではない。できることを積み重ねているだけだ。
穿穴の洞の出口が見えてくる。
まだ奥には行っていない。
だが、焦る気持ちはなかった。
「……もう少し、このやり方で行ってみます」
「うん」
カナは頷いた。
二人の戦い方は、ようやく形になり始めていた。
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