第11話 遮られる軌道
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穿穴の洞に入って三度目だった。
最初に感じた違和感は、もうはっきりした形になっている。
「……やっぱり、当たらないですね」
エンは小さく息を吐いた。
小球はいつも通り滑らかに浮いている。
だが、目の前のケイブゴブリンは距離を取り、岩陰に半身を隠したまま動かない。
「ゴギャ」
短く鳴き声を上げると、別の個体が横に回る。
「見てるね」
カナが静かに言う。
エンは頷いた。
転石の洞の魔物とは違う。
本能的に突っ込んでこない。
球を動かすと、それを待つように位置を変える。
試しに、小球を転がした。
斜めから。壁に当てて軌道を変える。
だが、ゴブリンは動かなかった。
球が近づいた瞬間だけ、一歩引く。
当たらない。
「……読まれてる」
「うん」
カナの声は落ち着いている。
「球が来る場所が、分かってる動きね」
エンは球を戻す。追い込もうとしても、別の個体が横に出てくる。
無理に追えば、逆に囲まれる位置だ。
しばらく睨み合いが続いたあと、ゴブリンたちは短く鳴き声を交わし、奥へ下がっていった。
追わない。
追えない。
「……なんか、負けた気分ですね」
「でも怪我してないんだから上々よ」
カナが言う。
「それでいいと思う」
エンは苦笑した。
確かにそうだ。F級はそういう場所だと、レオも言っていた。
だが、納得はできない。
球を当てられない。それがこんなに引っかかるとは思っていなかった。
さらに奥へ進むと、別の群れと遭遇した。
今度は三体。
エンは小球を左右に動かし、牽制する。
すると、ゴブリンは一斉に距離を取った。
「……避けてる」
「怖がってるんじゃない?」
カナが言う。
「いや、違うな。……待ってる」
その言葉の意味はすぐに分かった。
球が止まるのを。
動きが終わるのを。
その瞬間を待っている。
エンは小球を止めないように意識する。
だが、ずっと動かしていれば集中力が削られる。
わずかに操作が遅れた瞬間、ゴブリンが一歩踏み込んできた。
「……クッ」
慌てて球を戻す。
ゴブリンはすぐに引いた。
試している。
そう感じた。
「……賢いですね」
「うん」
カナは短く答えた。
「獣じゃない」
エンは小さく息を吐き、球を浮かせ直す。
今までの戦い方は、敵が来る前提だった。
だがここでは違う。
相手は、来ない。
来させようとしている。
帰り道。
ダンジョンの出口が見えたところで、エンはようやく口を開いた。
「球の動きが、直線的すぎるのかもしれません」
「どういうこと?」
「転がしたら、だいたい同じ動きになるんです。だから……見てれば避けられる」
言いながら、自分でも少し納得した。
今まではそれでよかった。突っ込んでくる相手には十分だった。
でも、考える相手には通用しない。
「じゃあ、変えないとね」
カナは軽く言った。
「すぐじゃなくていいけど」
エンは頷く。
焦る必要はない。
まだ、危険なわけじゃない。
ただ――。
「……次は、もう少し考えて動かしてみます」
球を浮かせながら、エンはそう呟いた。
穿穴の洞の出口から差し込む光が、少しだけ眩しく感じられた。
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