第106話 昇格の理由
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三人はギルドマスターの机の前に立つ。
座るようには言われなかったが、不思議と威圧感はなかった。
「楽にしていい」
ギルドマスターが言う。
「説教をするつもりで呼んだわけではない」
カナが肩の力を抜く。
エンとノアも、少しだけ緊張を緩めた。
「まず確認だ」
ギルドマスターは書類に目を落としたまま言う。
「今回の寄生体。お前たちは討伐目的で奥へ進んだわけではないな」
「はい」
エンが答える。
「前線が崩れそうだったので、原因を確認しようとしました」
「そうだろうな」
短く頷く。
「報告とも一致している」
撤退したパーティ。
途中で合流したジンのパーティ――ラインエッジ。
複数の証言が、同じ流れを示していた。
「勘違いするな」
ギルドマスターが顔を上げる。
「強かったから評価するわけじゃない」
エンは少し驚く。
「……はい」
「D級にも強い奴はいる。C級にも弱い奴はいる」
淡々とした口調だった。
「だが今回、お前たちは状況を変えた」
静かな言葉だった。
だが重みがあった。
「前線は崩れかけていた。誰かが止めなければ、撤退は連鎖していた」
机の上の報告書を軽く叩く。
「実際、おかげで多くのパーティが生還できた」
エンは言葉を失う。
そこまで考えてはいなかった。
「もう一つ」
ギルドマスターが続ける。
「同じ評価をするパーティがある」
三人は顔を上げた。
「ラインエッジだ」
予想していた名前だった。
「あちらは前線を維持した。無理に下がらず、崩れなかった」
戦い方は違う。
だが結果は同じだった。
「どちらも、D級の仕事ではない」
部屋が静かになる。
カナが腕を組んだ。
「……つまり?」
ギルドマスターはわずかに口元を緩める。
「昇格だ」
エンが瞬きをする。
「C級……ですか」
「そうだ」
はっきりと言われた。
「今回の功績をもって、フロウラインおよびラインエッジをC級へ推薦する」
実感が追いつかない。
D級に上がった時とは違う。
段階を一つ上がる、という感覚ではなかった。
何かが変わる。
そんな響きだった。
「ただし」
ギルドマスターが指を一本立てる。
「この街の周辺にはC級ダンジョンがない」
カナが小さく息を吐く。
「やっぱりそうなりますか」
「C級として活動するなら、拠点を移す必要がある」
すでに分かっていたことだった。
だが、はっきり言われると重みが違う。
「すぐに出ろとは言わん。正直、この街のギルド長としては、このままいてくれた方が助かる」
ギルドマスターは続ける。
「だが――行くんだろう?」
視線が三人を順に見た。
「お前たちは、もう新人じゃない。それだけは肝に銘じておけ」
その言葉が、静かに胸に落ちる。
G級から始まり、F級、E級、D級。
気づけば、ここまで来ていた。
「……ありがとうございます」
エンが頭を下げる。
ノアも静かに続く。
カナは少しだけ笑った。
「まあ、なるようになったって感じかな」
頭を下げてから部屋を出る。
階段を降りながら、しばらく誰も話さなかった。
やがてエンが小さく言う。
「……C級、ですね」
「うん」
カナが答える。
「ここからが本番だよ」
ノアも頷いた。
「やることは、変わりません」
ギルドの扉を開ける。
外の光が少し眩しい。
この街での冒険は、もう終わりに近づいていた。
だが流れは止まらない。
次の場所へ、確実に繋がっている。
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