第414話 三者面談2
ユリ親子との食事中。
急に始まった縁談の話題に、ムビは完全に置いていかれていた。
「い、いやいや、絶対僕なんかじゃユリさんに申し訳な———」
ムビが言いかけると同時に、ユリは勢いよく椅子から立ち上がった。
(ほら、やっぱり怒ってる……)
しかし次の瞬間、弾んだ声が部屋に響いた。
「パパ、いいの!?」
ムビは思わず二度見した。
ユリの瞳は、まるで宝石みたいに輝いていた。
「もちろんだ! パパは全面的に応援するぞ!」
「ほんとー!? やったねムビ君、パパがOKだって♪」
「ちょ、ちょちょちょ待って!」
ユリ親子の展開の早さについて行けず、ムビは息切れしそうだった。
「どうしたの、ムビ君?」
「『どうしたの?』じゃなくて……! 絶対、俺の反応が正しいですよね!?」
キョトン顔のユリに、ムビは思いっきり突っ込んだ。
「あっ、ムビ君は知らないよね? うちの家系では代々、現当主が娘の結婚相手を決めるんだ♪ だから、パパがOKって言えばOKなんだよ♪」
「だから、そういう問題じゃなくって!」
「ん? どういう問題?」
「だから、その……」
ムビは赤面しながら、しどろもどろになって答えた。
「お、俺が旦那さんとか……困るじゃないですか?」
ユリは目を丸くして首を傾げた。
「……なんで? ムビ君より仲良い男子なんて、私いないよ?」
ムビは心臓を撃ち抜かれたかと思った。
雷撃でもくらったかのように全身が痺れ、頭が上手く回らない。
「まっ! でも今はアイドルだからね♪ ファンの皆が悲しんじゃうし、私がアイドル引退してからの話になるかな? あはは♪」
屈託なく笑うユリの顔を、ムビは直視できなかった。
緊張感の増した空気を、ユリの父親の豪快な笑い声が吹き飛ばした。
「はっはっは! 若いとはいいものだな! まぁ、ぜひとも前向きに考えてくれたまえ♪……あっ、そうだムビ君。今日は泊まっていきなさい」
「えっ!? そんな、申し訳ないです!」
「なぁに、うちでは客人は一泊もてなすのだ。それに詳しくは知らんが、一人でS級の依頼をやり遂げたのだろう? なら、一日くらいゆっくりしていきなさい♪ そこらの宿よりは寛げると思うぞ? わっはっは♪」
ムビはしばらく遠慮したが、結局強引に一泊することになった。
◆ ◆ ◆
「ふぅ、いいお湯だったぁ~」
ムビは客室のベッドで横になっていた。
クーラーで冷えた室温が、火照った体に心地良い。
(確かに、これは宿に泊まるより寛げるなぁ……)
豪勢な料理、温泉の湧き出る大浴場、ふかふかの高級ベッド。
冷蔵庫を開けると、特産品の果実ジュースがずらりと並べられていた。
キンキンに冷えた一本を一気飲みすると、生き返った気分だった。
コンコン。
そのとき、ドアがノックされた。
「はいは~い、どちら様で……」
ムビが向かう間もなく、勢いよくドアが開かれた。
「やっほ~、ムビ君っ♪ 遊びに来たよ~♪」
弾ける笑顔のユリが部屋に入ってきた。
寝間着なのか、浴衣のような姿だ。
「ユ、ユリさん!?」
「あ~、そのジュース美味しいよね♪……お~っ、これが客室のベッドかぁ! うわっ、私のベッドよりふかふかじゃん!?」
ベッドにダイブしたユリは、そのまま楽しそうに転がり回る。
「私もそのジュース飲みたいなぁ? ムビ君、持ってきて~♪」
ユリの細く白い指が手招きする。
浴衣は乱れ、肌の露出が目立ち、ムビは顔を赤くした。
「は、はい……、ただいま……」
ムビは新人召使のように畏まりながらジュースを二本持ってきた。
一本はユリの分、もう一本は自分の飲みかけ。
「わぁ~い、ありがとう~♪」
ユリは飲みかけのジュースをひったくった。
「あっ! それ、俺の……!」
ムビが止める間もなく、ユリはジュースに口を付けた。
「ぷはぁ~っ! やっぱり美味しいねぇ~♪……ん? あっ、これムビ君のだった? めんごめんご♪ はいっ、返すね♪」
ユリは笑顔で口付けたばかりの瓶を渡してきた。
「い、いいです……それ、あげます……」
「ほんと? 悪いね、ムビ君♪ ほら、座って座って!」
ユリはベッドをぽふぽふ叩いて着席を促す。
ムビは恐る恐る腰を下ろした。
「久しぶりだねぇ~♪ 二人っきりになるのは、幽影鉱道以来じゃない?」
「そ、そうですね……」
よりによってなんてものを思い出させるんだとムビは思った。
「ふふふ、ムビ君~♪」
「な、なんですか……?」
「一人目は男の子がいい? それとも女の子?」
ムビは勢いよくジュースを噴き出した。
「ゲホッ! ゲホッ! な、ななな何言って……!?」
「冗談だよ~♪ まだまだだいぶ先の話だもんねっ!……だから今日はぁ、"練習"しておこうと思って♪」
「れ、練習って何の……?」
「やだなぁ~♪ そんなの……決まってるじゃん?」
ユリはくすくす笑いながら、ムビの肩に抱き着いた。
あまりの温かさと柔らかさに、ムビは悲鳴を上げそうになった。
「今晩はぁ~、寝・か・せ・な・い・ぞっ?」




