第413話 三者面談
「いやぁー、よく来てくれたねぇ、ムビ君! もっと早く遊びに来てくれて良かったのに! がっはっはっは!」
ムビの目の前には、パーティでも始まるのかというほどの豪勢な料理。
隣にはユリが座っていて、正面にはユリの父親がニコニコと笑顔を向けている。
ムビは苦笑いを浮かべながら戸惑っていた。
(えっと、なんでこうなったんだっけ……?)
◆ ◆ ◆
始まりは二日前。
S級クエストの達成を祝う、『四星の絆』の打ち上げ中。
上機嫌に話していたユリが、丸い大きな瞳をくるりとムビに向けた。
「そういえばさぁー、ムビ君♪ 良かったらうちに遊びに来ない?」
「え? ユリさんの家に、ですか?」
思えばこれまで『四星の絆』メンバーの家に遊びに行ったことはなかった。
シノの家には悪い意味で呼び出されたことはあるが……。
「そうそう! パパが絶対連れて来いって♪ 週末とか空いてないかな?」
ユリの父親とは面識がある。
S級冒険者選抜大会の本選出場者パーティで一度話したが、伯爵家の当主らしく、大柄で明るい人物だった。
「そうですね。魔油の採掘はもうすぐ終わるので、明後日なら大丈夫ですよ」
「ほんと!? じゃあ決まりね♪ あっ、ご飯はうちで用意するから、何も食べずに来てね♪」
その会話を聞いていた他の三人も、次々と口を開いた。
「こほん。あー、ムビさん? 実は私の父も、ぜひムビさんを招待したいと申しておりまして」
「えっ、そうなんですか?」
シノに続いて、ルリとサヨも割って入る。
「うちもうちも。パパが連れて来いってうるさくて。予定空いてるなら、うちにも来てよ?」
「私の父も、ぜひムビさんにお会いしたいと申しています。よろしければ、ぜひ」
「えっと……俺、何かしましたっけ?」
シノの家での出来事が去来するムビは、冷や汗を流しながらしきりに困惑していた。
◆ ◆ ◆
そして今日。
ムビは大きな門の前に立っていた。
奥には広い庭と立派な屋敷が見える。
「ふえー、ここがユリさんの実家……」
伯爵家の威容に感心していると、門が開きユリが姿を見せた。
「やっほー、ムビ君♪ ようこそお越しくださいました♪」
いつも通り元気いっぱいのユリは、気品のあるドレスに身を包んでいた。
実家ではこういう服装なのだろうか。
本当に貴族の御令嬢なんだなぁと、ムビは改めて思う。
「ふふふ、今日はお嬢様モードだよ♪ どう、似合う?」
くるりとその場で一回転するユリ。
「え、ええ……とても……」
「ふふっ、良かった♪ さっ、ご案内いたしまぁーす♪」
◆ ◆ ◆
そして、今に至る。
「まったく、ムビ君には感謝しかない! よもや、我が一族からS級冒険者が誕生するとは! 末代まで語り継がれる譽だ!」
ユリの父親は笑顔でムビに酒を注いでいた。
「いやぁ、ユリさんなしではとても優勝できませんでした。ずっとうちのエースとして活躍してくれて……」
「そうだろう!? いやいや、この子の今の強さときたら! 半年前までは私の方が強かったのに、昨日手合わせしたら手も足も出ん! 私も腕には自信があるのだがなぁ! がっはっはっは!」
ユリの一族は代々武勇を重んじると聞いている。
ユリの父親もAランク冒険者に近い実力がありそうだが、さすがに今のユリでは相手が悪すぎる。
「パパ? 私が強くなれたのはムビ君のおかげなんだよ?『Mtube』やアイドル活動が成功したのも、ぜーんぶムビ君のおかげ♪」
ユリに手放しに褒められムビは困惑するが、ユリの父親の称賛は止まらない。
「いやはや、本当にムビ君には頭が上がらない! ところで、ムビ君は生まれはどこなのかね?」
「えぇっと……実は、幼い頃の記憶がなくて。気付けばルノアールの孤児院で暮らしていたのですが」
ユリが目を見開く。
「えっ!? ムビ君、そうだったの!?」
「はい。孤児院を出て、冒険者になるための修行中に『白銀の獅子』に加入して……という感じです」
ユリの父親は顎髭を撫でながら興味深そうに聞いていた。
「ふむ……そうだったか。ご両親にもぜひ、一度ご挨拶をと思ったのだが。……ところでムビ君、君は交際中の女性はいるのかね?」
「あはは、残念ながらそういう話にはとことん縁がなくて……」
「ほう……縁がないとな?」
ユリの父親の顔がニンマリとしていく。
「どうかねムビ君? 君さえよければ、ユリを貰ってやってくれんかね?」
「いやー、いいんですかねそんなー、僕なんかがユリさんを……今なんて?」
ヘラヘラ笑っていたムビは、目を見開いて固まった。
「ユリを貰ってくれんか、と言ったんだ。正直、ユリには貴族連中からの縁談がひっきりなしに届いていてな。中には公爵家からの縁談もあるのだが……君さえ良ければ、と思ってな」
貴族ジョークだろうかと思ったムビは、慌てふためいて苦笑いした。
「い、いやいや、僕なんかじゃユリさんには勿体なさ過ぎて……それに僕、平民の出ですし……」
「構わんよ。確かに、ユリは可愛い可愛い愛娘だ。名家に嫁がせようと思っていたのは事実だが、君ならばもっとユリを幸せにできると思ってね」




