第415話 三者面談3
「でやぁーっ!」
カァン!
深夜。
ユリの屋敷に併設された訓練場に、木刀がぶつかる乾いた音が響いた。
打ち込まれた一撃を、ムビは軽く受け流す。
「うおっ!?」
勢い余ったユリは宙で一回転し、そのまま砂地に着地した。
「はぁ、はぁ……すごいね、ムビ君! 全然隙がないや!」
「あはは、どうも……」
カァン! カァン! カァン!
ユリの連撃を捌きながら、ムビは苦笑いしていた。
("練習"って、このことね……)
数百に及ぶ斬撃を完璧に受けきられ、ユリはへたり込んだ。
「くそーっ、結局一発も入らなかった! ムビ君、剣の神様みたいだねっ!」
「いえ、ステータスが高いだけです。剣の腕自体は、ユリさんの方が上ですよ?」
「そうかなぁー? 全然そんな感じがしないや、あはは♪」
全て受けきったとはいえ、ムビは素直に驚いていた。
ユリの強さは、S級選抜大会決勝で戦った『白銀の獅子』に迫るものがあった。
聖装"破邪の剣"、魔装"ガークエイクの剣"、スキル"剣神"のバフもあるだろうが、ムビが知る限りでは国内十指に入る実力だ。
(そういえば、破邪の剣って魔物弱体化の効果があったよな……?『白銀の獅子』って全員魔物化してたし……あれ? もしかしてユリさんがいれば、決勝楽に勝てたんじゃ……?)
「S級冒険者になったんだし、師匠たちみたいにもっともっと強くならなきゃね!」
「師匠……。そういえば、シンラさんたちってどこ行ったんですっけ?」
ミラの友人である亜人種の三人組。
鬼人のシンラ、獣人のナズナ、エルフのシェリー。
ムビがリリスに囚われている間、いつの間にか姿を消していた。
「師匠たちね、私たちの準決勝見て、修行の旅に出たんだって! 普通さ、決勝まで応援すると思わない!? ほんっと信じらんない!」
「あはは……まぁ、らしいっちゃらしいですね。それで、今は何を?」
「それがさ、三人とも魔装を入手したらしいの。ただでさえ化物だったのに、レベル上限もなくなって、今とんでもなく強くなってるんだって!」
「うわぁ……なんか目に浮かぶ……」
「ほんとだよ! せっかく追いついたと思ったのにさ?……あ~っ! こうしてる間にも差が開いている気がするぅ! ムビ君っ、やろう!」
「え? うわっ、ちょっと待っ……!」
こうして深夜遅くまで、ムビとユリの修行は続いた。
◆ ◆ ◆
翌日。
ムビはシノの屋敷を訪れ、昨日と同じく三者面談のような状況になった。
(なんか、軽くデジャブだな……)
シノの父親が軽く咳払いをする。
「久しぶりだね、ムビ君。まさか、本当に優勝してしまうとは……。シノが本当に世話になった。心から感謝申し上げたい」
「いえいえ、そんな……」
深々と頭を下げられ、ムビは慌てて手を振った。
「初戦は正直、胸が張り裂けそうだったが……準々決勝、準決勝の君たちの活躍には、本当に心打たれた。今は、シノが『四星の絆』であることを心から誇りに思うよ」
「あはは。準決勝は、俺不在でしたけどね。シノさんのおかげで優勝できました」
シノは首を横に振る。
「何言ってるんですかムビさん? ムビさんがいなければ、そもそも大会にすら出場できていませんよ?」
「ムビ君、シノから色々と話は聞いている。私もその通りだと思う。先日も、S級の依頼をこなしてきたのだろう? 本当にささやかだが、今日はゆっくり寛いでいってくれたまえ」
シノの父親が指を鳴らすと、メイドたちが料理を運んできた。
二日連続の御馳走に、ムビは心躍った。
「ところでムビ君。S級の依頼とは、どんな内容だったのかね?」
料理を口に運ぶムビに、シノの父親が尋ねた。
「はい。魔油の採掘です」
その気軽な返事を聞いた瞬間、シノの父親の手が止まった。
「ま、魔油……? そ、それはすごい……。しかしムビ君、我がクローディア王国にはほとんど油層がなくてだね……」
「そうなんですよ、地上には全然なくて。なので、海底を掘りました。もう十箇所ほど油田として稼働しているので、もうすぐ魔油の価格は下がり始めると思います」
シノの父親はフォークを落とした。
「あっ、し、失敬……。そ、それは本当かね? にわかには信じがたいが……」
様子の変わらないムビの代わりに、シノが得意げに胸を張る。
「それだけじゃないんですよ、お父様? ムビさんは世界初の、アクアミスリルの事業主になったんです♪」
「アクアミスリル……? なんだい、それは……?」
ムビが答える。
「なんか、魔油の五倍のエネルギー効率があるみたいです。ミスリルが液状化したもので……」
ムビの説明を聞き、シノの父親は息を呑んだ。
「深海八千メートルに、巨大油田だと……?」
「お父様? ムビさんはその功績が認められて、近々爵位を与えられるそうですよ」
「爵位を? こ、この若さで……? い、いや……しかし、これほどの実績ならば確かに……。コホン。で、では、ムビ君は貴族になるのだね……?」
シノの父親は咳ばらいをし、両手を組んだ。
「あー、ムビ君。君さえ良ければなんだが……どうだろう? シノを許嫁にする気はないかね?」




