第410話 リリスの部屋にて5
早朝。
メイドのリンは支度を整え、いつものように第六王女リリスを起こしに向かった。
昨日と変わらぬ静かな朝———のはずだった。
(さて、今日のリリス様の予定は……ん?)
部屋の前で、はたと立ち止まった。
ドアの前に、屈強な大男が四人、壁のように立ち塞がっていた。
(こいつら……確か、第三王子のS級パーティ! ま、まさか……!?)
警戒するリンに、大男の一人が気付いた。
「おっ? 第六王女のメイドか?」
「なかなか可愛いじゃねぇか♪ 朝からご苦労さん♪」
リンは男たちを睨みつけ叫んだ。
「お前たち! リリス様の部屋の前で何をしている!?」
殺気立つリン。
だが、男たちはせせら笑った。
「何って? 決まってるじゃねぇか。チャゴラス様の護衛だよ♪」
「そうそう。昨晩から、リリス様とお楽しみ中だよ♪」
リンは顔面蒼白になった。
「なん……だと……?」
男たちの圧が一気に増す。
「そういうわけだ。下人はさっさと失せろ」
「部屋に入ろうものなら、この場で即刻首を刎ねるぞ?」
明らかに遥か格上の四人。
リンではどうしようもない。
(どうしよう……リリス様を助けないと……! でも……)
圧にあてられ立ちすくむリンを、男たちは嘲け笑った。
「さぁさぁ、帰った帰った♪ 良かったじゃねぇか、今日の仕事はお役目ごめんだ♪」
「なんなら俺たちと遊ぶか? はははは!」
男たちがリンに歩み寄る。
リンは身の危険を感じ、足早にその場を立ち去った。
(くそっ……! くそっ……!)
リンの姿が視界から消え、男たちは下卑た笑い声を上げた。
「へへへ♪ まったく、いい仕事だぜ」
「声が丸聞こえだからな♪ くぅー、チャゴラス様が羨ましいww」
「これならいくらでも待てるぜ、ぎゃははは♪」
男たちは静まり返り、ドアの向こうの物音に耳を澄ませた。
◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ……」
ベッドの上には、銀の鎖で全身を縛られたリリス。
その胸元に、チャゴラスの顔があった。
「おっ? ここが怪しいぞ? おっ? おっ? おっ?」
ねちっこくも激しい愛撫。
「あっ! あああああーーっ!」
金属音とベッドの軋む音。
ビクビク震えるリリスを見て、チャゴラスは満足げに笑った。
「ぶふふ♪ 気持ち良かったねぇー♪……ふあぁ~、何だか眠くなってきちゃった」
チャゴラスは大あくびをすると、リリスを抱き枕にして眠り始めた。
(まったく……ようやく終わりましたか……)
怪しげな淫魔法と魔道具の数々。
体の震えの残る中、胸元に顔を埋めイビキをかくチャゴラスを見て、リリスはため息をついた。
(別荘に引き籠っている間に、趣味の悪辣さは更に増したようですね……)
2年前。
血への渇望に苦しんでいたところを、この豚に狙われた。
狂い抜いた末に渇望は収まったが、以降、チャゴラスのセクハラが続いている。
(あぁ、なんて醜い……。早く、焼き豚にしてしまいたい)
涎を垂らして眠るチャゴラスを見下ろしながら、リリスは『必ず王位を奪う』と静かに誓った。
◆ ◆ ◆
一週間後。
ムビは再び、海の中を潜っていた。
この一週間、サヨと共に転移の魔法陣の術式構築に没頭していた。
魔油を転移させ、その魔力で魔法陣を持続させる———理論は完璧。
あとは実践のみ。
(うまくいってくれるといいなぁ)
あっという間に海底に到達したムビ。
目の前には自噴する魔油の大穴。
(さぁて、始めますか)
ムビは大穴の中に突入した。
数十メートル潜ったところで、術式を構築する。
(転移魔法陣……展開!)
———バチィッ!
ムビの頭上に、大穴を完全に覆いきる程の巨大な魔法陣が現れた。
魔油に触れた途端、魔法陣は光を帯びながら回転を始める。
(……よし! うまく起動してるみたい! あとは、もう一個……)
ムビは湧き出る魔油に逆らいながら、更なる深みへと潜っていった。
10キロ程潜り、油層に到達する。
それでも止まらない。目指すは油層の底。
(自噴の圧力はいずれ弱まるからね。資源を取り切るには、油層の底に魔法陣を展開しないと……)
延々と潜り続け、ムビはついに油層の底に到達した。
(転移魔法陣……展開!)
巨大な魔法陣が現れ、回転を始める。
(よし! あとは転移の実験あるのみ!)
ムビは魔法陣に向かって突入した。
———バチィッ!
光が弾け、気づけば魔油の貯蔵庫の中。
「おぉっ! やった、転移成功!」
貯蔵庫には二つの巨大な魔法陣が稼働し、魔油が次々と転移されてくる。
「よしよし、これでクローディア王国は産油国の仲間入りだね。リリスも喜ぶだろうなぁ」
まだ液体ミスリルの採掘も残っている。
クローディア王国の海域を調べれば、まだまだ油層は見つかるだろう。
自分の手で国のエネルギー自給率が上がっていく———その実感に、ムビは胸を躍らせた。
「よーし、もっともっと採掘して……って、うわっ!? ベトベトじゃん!?」
ムビは慌てて貯蔵庫を抜け出し、シャワーを浴びに自宅へ飛んで帰った。




