第409話 リリスの部屋にて4
深夜。
静まり返った回廊に、湿った笑い声がにじむ。
リリスの部屋を訪れたのは、パーティ会場でセクハラをしてきた———第三王子チャゴラスだった。
「ぶふっ♪ 良かったぁ! まだ起きてたんだねぇ♪」
豚面を歪め、肩を揺らして笑う。
笑うたびに、顔の贅肉が小刻みに揺れていた。
「……あら。こんな時間にどうされました、お兄様?」
リリスは微笑んだ。
今すぐ扉を閉めて鍵をかけたい衝動をグッと抑え込みながら。
「いやいやぁ~! こんな時間まで貴族連中と話し込んじゃってさぁ! 今日は城に泊まることになったんだ♪———だからぁ、折角ならぁ? リリたんと一緒に寝たいなぁ~と思ってぇ♪」
リリスは表情を崩さなかった。
が、ドアノブが僅かに軋みを上げた。
「お兄様、いけませんわ。今日は随分お疲れでしょう? お一人でゆっくり休まれた方が———」
「あれ? 嫌なのかな、リリたん?」
覗き込むように顔を寄せるチャゴラス。
リリスは頭をフル回転させる。
聡明な頭脳は、"嫌"と答えた場合、かえって事態を悪化させると結論付けた。
「いやですわお兄様、そんなわけないではありませんか。ただ少し、お兄様のお体が心配で……」
「大丈夫大丈夫! リリたんと一緒の方が、ボク様よぉ~く眠れるんだっ♪ それに……さっきの続き、したいじゃない?」
チャゴラスの目がいやらしく歪む。
「どう? リリたんもさぁ~、そんな気分なんじゃないの?」
空中でもみもみと動く両手。
リリスは鉄面皮のような笑顔を貼りつけながら、数秒間沈黙した。
「……えぇ、もちろんですわ。さぁお兄様、お入りください」
「えへへぇ~、さすがリリたぁ~ん! わかってるぅ~♪」
リリスがドアを開けると、チャゴラスは大はしゃぎでベッドにダイブした。
「おぉ~っ! リリたんのベッドふかふか~っ♪ うっはぁ! リリたんの良い匂いがするぅ~っ♪」
ボヨンボヨンと豚がベッドで跳ね回る、地獄のような光景。
それでも、リリスの表情はいささかも崩れなかった。
「そうですわ。お兄様、何かお飲みになりますか? 私、準備して———」
逃げようとしたリリスの手首をチャゴラスが掴む。
「いいっていいって♪ それよりさぁ、さっきの続きしようよ♪」
舐め回すような豚の視線。
リリスは思わず魔剣を抜いて、丸々とした手首を切断しようかと思った。
「ほぉ~ら、こっちへおいで♪ 今晩はぁ~、寝・か・さ・な・い・ぞっ?♪」
手首をグイッと引っ張られ———そのままチャゴラスの肥え太った体に抱き止められた。
◆ ◆ ◆
「くぅっ……」
ベッドの端で、リリスはチャゴラスに体を好き放題触られていた。
(……サワ……モミモミ……)
「ほらほらぁ~♪ リリたんは確かぁ~、お耳がウィークポイントじゃなかったっけぇ?」
(フゥ~ッ)
耳元にかかる、豚の吐息。
(ヌロォッ)
活発に動く舌。
形容することすらおぞましいその感触に、リリスは背筋が粟立った。
「ぬふっ、ぬふふっ♪ こりゃけしからん♪ それじゃあ張り切って———コレ、嵌めてもらおうか?」
チャゴラスが取り出したもの。
それは、"隷属の首輪"だった。
薔薇で装飾された首輪を目の前でチラつかされた瞬間、リリスの頬に汗が流れる。
「ぶふふ、覚えてるかな♪ これを首に嵌めたら、奴隷ギアスと同じ状態になるって♪ さぁ、跪いて媚びてごらん?『ボク様の奴隷にしてください』って♪」
リリスは奥歯を噛み締めながら、チャゴラスの前で跪いた。
「……どうぞ、私を奴隷にしてください。お兄様……」
言うや否や、リリスは成す術もなく首輪を嵌められる。
「ぶふっ♪ これで奴隷人形の完成♪ はいっ! じゃあまずは、邪魔な衣服を剥ぎ取ろうか♪」
チャゴラスはドレスの胸元を掴むと、力ずくで引き裂いた。
リリスの豊かな胸が露になる。
「おーっ、絶景♡ はいっ、そのまま服従ポーズね♪」
リリスの首に魔力が迸り、チャゴラスの命令が全身を支配する。
両手を頭の後ろに組んで、跪くリリス。
「まぁ、こんな首輪嵌める必要ないんだけどね? だって、ボク様とリリたんの間には、元々主人と奴隷にも等しい差があるんだから♪」
(キュッ)
チャゴラスは零れ落ちた果実の先端を抓んだ。
指の腹で捏ね繰り回しながら、リリスを見下ろす豚の視線。
リリスは血が沸騰するような激情を押し殺し、笑顔を浮かべ続けた。
「もちろんですわ。こんな首輪などなくとも、私はお兄様の従僕ですわ」
「ん~、本当にそう思ってるのかなぁ?」
太い指で弄り回され、リリスの背中がビクリと震える。
「リリたん、王位継承争いにやる気満々って噂だよ? 特に、ボク様管轄の省庁にやたらと文句言ってるって話じゃない? そこんとこ、どうなのよ?」
胸を愛撫されながら、リリスは必死の作り笑いを浮かべる。
「と、とんでもありませんわ……。私がお兄様のやり方に文句だなんて。誰かが言いふらしたデマなのでは?」
疑いに満ちたチャゴラスの顔が、ニッコリと微笑んだ。
「だよね~!? こぉ~んな情けない姿晒してるリリたんが、ボク様に歯向かう訳ないもんねぇ~!♪ それにぃ、万が一その気があったってぇ? 末席の第六王女ごときにできることなんて、なぁ~んにもないわけだしぃ~♪」
チャゴラスの手つきは問い質すように執拗さを増し、リリスの口から徐々に吐息が漏れ始める。
「でもぉ~、やっぱりちょっぴり怪しいからぁ~? この際しっかり取り調べた方がいいと思うんだぁ~♪ もちろん朝まで♡ ねっ♪ リリたんも、潔白を証明したいでしょう?」
リリスは溢れ出そうになる殺気を噛み殺すように、思い切り舌を噛んだ。
目をキラキラ輝かせてご満悦の豚の顔面を、今すぐ陥没させたい———そんな衝動を必死で押し殺し、痛みと血の味でギリギリ正気を保った。
「……もちろんですわ。存分にお調べになって?」
天使のような笑顔。
チャゴラスは鼻の下をいやらしく伸ばし、興奮気味に鼻を鳴らした。
「おっ? かったぁ♡ 興奮してきたのかなぁ~、リリたんっ?」
豚の欲望を一身に受ける胸元が、絶え間なく上下する。
リリスは唇を噛みながら必死に耐え続けた。
「よぉ~し、た~っぷり取り調べちゃうぞぉ~♪ こっちおいで、リリたん?」
リリスは息を乱しながらチャゴラスの隣に座ると、そのままベッドに押し倒された。




