第406話 リリスの部屋にて
パーティが終わったあと、ムビと『四星の絆』はリリスの私室に招かれ、丸いテーブルを囲んでいた。
ムビはタキシード姿のままジュースを飲み、女性陣は華やかなドレスでスイーツをつまんでいる。
本来は「S級冒険者としての今後の活動方針を話し合う」という名目だったが、話題は完全に第三王子チャゴラスへの不満一色だった。
「なによ、あれっ!? いくら王子でも、あんなの許されないでしょ!」
「見事な豚でしたわね」
「ちょ、ルリ、サヨ!? リリス様の前で言い過ぎじゃ……」
シノが慌てて止めるが、当のリリスは平然としていた。
「いえ、事実です。あれはただの豚ですから。好きに罵ってください」
「あら、珍しく意見が合いましたわね」
サヨとリリスはワインを片手に意気投合している。
その雰囲気がどこか似ていて、ムビは姉妹のようだと思った。
ふと、リリスと目が合う。
「ごめんなさい、ムビ様。私を守ってくださったのに……兄が失礼をいたしました」
「ううん、大丈夫。リリスの方がよっぽど酷いことされてたし……」
ムビが慌てて手を振るが、女性陣の怒りは収まらない。
「ほんとだよ! なんでお兄さんなのに、あんなことするの!?」
『四星の絆』が口々に憤る中、リリスは涼しい顔でワインを一口。
「あれは異母兄妹であろうと関係ありません。色に狂ったただの豚です」
「狂い過ぎだよ!?」
「……ひょっとして、ああいうのって日常茶飯事なんですか……?」
シノが恐る恐る尋ねる。
「まぁ、今日のはまだ軽い方ですね」
「あ、あれが軽いって……」
リリスは特に気にした様子もない。
「ふふふ。お気遣いありがとうございます。ですが、王族は生まれた順が絶対。下手に逆らえば、もっと酷い仕打ちが待っています」
諦めるようにリリスは瞳をわずかに伏せた。
しかしルリは頬を膨らませた。
「でも……リリス様だって嫌なんでしょう?」
「もちろんです。立場が逆なら、あの汚い手が触れた瞬間に殺しています」
血のように赤いワインを回しながら、リリスは満面の笑みを浮かべた。
冗談に聞こえないその笑みに、一同は震え上がる。
「皆さんもお気をつけください。あの豚に目を付けられ、行方不明になった女性は数知れません」
「えぇっ!? それって誘拐ってこと!?」
『四星の絆』が絶句する。
「えぇ。芸能人やアイドルが突然失踪するでしょう? 大体、兄の仕業です」
「うわ、最悪……」
女性陣がドン引きする。
「ちょっと待って……数年前、『エヴァンジェリン』のエースが失踪したのも……?」
「おそらく兄でしょうね。可哀想に、まだどこかで匿われているのでしょう。最近、『Dtube』に似た人物が映っていたようですし」
「『Dtube』!? なんでそんなところに……!」
『Dtube』は『Mtube』と対をなす闇の動画サイト。
表では即BANされるような反社会的動画の巣窟だ。
「あぁ、チャゴラスは『Dtube』のヘビーユーザーです。王族の仕事も放り出し、ここ数年は別荘に籠って毎日下劣な動画の撮影に勤しんでいたのでしょう。ほら、これがあの豚のアカウントです」
リリスがスマホを見せる。
『King C』という名のアカウントが表示されていた。
「登録者数……210万……」
「『Dtube』ではトップクラスですね……」
ムビは魔力回路を魔法ネットワークに接続し、『King C』の情報を一瞬で収集した。
「ほんとだ……行方不明の有名人たちが出演しているみたいですね。界隈ではカリスマ的な人気があるようです」
ユリがじぃっと目を細める。
「ムビくん、もしかして動画見たの?」
「い、いや……見てないですよ!? 口コミとかまとめサイトの情報を集めただけで……」
ムビは必死に否定するが、女子たちのジト目が突き刺さる。
「ムビくんのエッチ」
「だから見てないですよ!?」
赤面するムビを救うように、リリスが咳払いをした。
「ともかく、こんな愚物が王になれば国は滅びます。なんとしても、私が次の王にならなければなりません。『四星の絆』の皆さんには、そのために協力していただきたいのです」
ユリが首をかしげる。
「えっと……でも、第三王子が王になることってあるんですか? 仕事もしてないって話だし……」
「残念ですが、あの豚は現在、王位継承でトップを争うほどの権力を持っています」
「えぇっ!? どうしてそんな……!」
リリスはグラスを置き、落ち着いた声で続けた。
「第三王子チャゴラスは、王位継承資格を持つ6人の中で、父上から最も愛されています。父上は本気で、あの豚を次代の王にしようとしているのです」
「そういえば、今日のパーティで王様に頭撫でられてましたね……」
隣の席での王とチャゴラスのやり取りを、全員が思い出す。
◆ ◆ ◆
「ねぇねぇお父様ーっ! ボク様、今の別荘飽きちゃった! 新しい別荘欲しいーっ!」
「はっはっは、可愛いやつめ♪ いいだろう、次はどこに別荘が欲しい?」
甘える様子に、ルリが「チャゴラス様っていくつよ?」と声をひそめていた。
もうすぐアラフォーに突入するとリリスから聞いた瞬間、ルリの顔は青ざめていた。




