第405話 第三王子チャゴラス
パーティの最中、『四星の絆』のテーブルに現れた小男。
第三王子チャゴラス。
ずんぐりむっくりした小太り体形で、背は『四星の絆』と大して変わらないか、下手をすればそれよりも小さい。
上向きの小さな鼻。細い目。
思慮の浅そうな声色から受ける第一印象は"子豚"、あるいは"太ったゴブリン"。
屈強な大男たちを連れて、威張るようにズカズカと歩いてくる。
テーブルの前で立ち止まると、目の前のユリを見てパッと顔を輝かせた。
「おほぉーっ! ユリちゃんだぁーっ♪」
チャゴラスは顔の肉を弾ませながら、ユリに駆け寄る。
「ぶふふ、ボク様、キミの大ファンなんだぁー! うひょーっ、実物はさらに可愛いねぇーっ♪」
豚のような細い目がさらに細められ、ユリの手首を掴んで強引に握手をする。
普通ならば気を悪くしてもおかしくない強引さではあったが、ユリは優しげな笑みを浮かべていた。
「あはは、どうもありがとうございます♪」
「ほんとだよ! いやぁー、昨日寝た女より君の方がずっと可愛いよぉー! ぶふふぅ♪」
愛想良く笑っていたユリの口元がわずかに引き攣った。
「あはは……それはどうも……」
チャゴラスはひとしきりユリと話すと、隣のサヨに目移りする。
「おぉーっ! 生サヨちゃんだぁ、オーラすごっ! 肌白いねぇー♪」
子どものように燥ぎながら、サヨやルリと握手をする。
セクハラまがいの言動が続き、ルリは辟易した表情を浮かべていた。
そのまま、ムビの番が回ってきた。
「あっ、初めまして。ムビと申しま———」
スッ。
手を差し出すムビの横を素通りし、チャゴラスはそのままシノと握手をした。
「あはぁっ! シノちゃーん! ちっちゃくて可愛いねぇー♪」
シノは苦笑しながら握手に応じる。
「お、お目にかかれて光栄です、第三王子……」
「選抜大会での君の痴態っぷりは良かったよぉ! いやぁ、あれは最高だった! ボク様としてはキミに大会MVPをあげたいくらいだよぉーっ♪ ねぇねぇ、エッチなことされてるときどんな気分だった??」
「え、えっと……」
手を撫でられ、シノは明らかに困惑していた。
出会ってわずか数分とは思えぬほどのノンデリとセクハラの嵐。
だが、相手は第三王子。
気を悪くさせれば、不敬罪に問われかねない。
誰も何も言えずにいると、リリスが小さくため息をついた。
「お兄様。シノ様が困っていますよ?」
鈴のようなリリスの声に反応し、チャゴラスは振り向いた。
「おぉーっ、リリたぁーーん♪」
まるで餌を見つけた豚のように、嬉しそうに鼻を鳴らしながらリリスに近付く。
「同じ席なのに、さっさといなくなっちゃってぇー! 久しぶりの再会だってのに、どこ行ってたのさぁー?」
馴れ馴れしく近付くと、いやらしく目を細め、スッと手を伸ばす。
また握手か、と誰もが思った。
が、チャゴラスの手はそのまま胸元まで伸び、リリスの胸を鷲掴みにした。
あまりの暴挙に、ムビと『四星の絆』はあんぐりと口を開く。
「おぉっ!? またおっきくなったねぇ!? 妹の成長を直に感じられて、ボク様嬉しいよぉ♪」
胸を揉まれながらも、リリスは眉一つ動かさなかった。
「お兄様、お戯れはほどほどに。皆が見ていますよ?」
「うん。だから何?」
チャゴラスは周囲の視線など気にせず、リリスの顔を覗き込んだ。
まるで、リリスの反応を楽しもうとしているかのよう。
「僕は第三王子だよ? この国で五指に入る権力を持ってる、えら~い人間なんだ♪ 第六王女のリリたんとは、天と地ほどの差があるんだよ? それにほら、これは握手だから! 握手はこう、力強~く、ねっ?」
そのとき、リリスの体が消えた。
「うん?」
いつの間にか、チャゴラスはムビと握手をしていた。
「はじめまして、第三王子。ムビと申します。お会いできて光栄———」
その瞬間、チャゴラスはムビの手を払いのけた。
「誰だよお前っ!? 今、リリたんと仲良くしてたとこでしょ!?」
チャゴラスの顔がみるみる不機嫌になっていく。
と同時に、取り巻きの男たちが駆け寄る。
「チャゴラス様に気安く触れるなよ? 殺されたいのか?」
男たちはムビを突き飛ばし、椅子と共にムビは倒れた。
「ちょっ……! 何するんですか、あなたたち!?」
ユリが憤慨すると、男たちは鼻で笑う。
「何とはなんだ? 先輩に向かってその態度はないんじゃないか?」
「……先輩?」
チャゴラスはニヤニヤ笑う。
「ふふふ、こいつらはボク様専属のS級パーティさ♪ 第一王子のとこと並んで、国内最強冒険者の一角、『敗北を教える会』♪ こないだまでA級のぬるま湯に浸かっていたお前たちとはレベルが違うよ?」
『敗北を教える会』のリーダーは倒れたムビを見下ろす。
「そういうわけだ♪ 俺たちはもう10年以上、S級冒険者として国を支え続けている。俺たちの背を見て、お前たちも学ぶんだぞ? わはははww」
チャゴラスは鼻を鳴らすと、リリスと『四星の絆』に向かって手を振った。
「じゃあね、リリたんと『四星の絆』の皆! 少しでも、偉大なボク様に近付けるよう精進したまえ! はっはっは♪」
上機嫌な笑い声を残し、チャゴラスと『敗北を教える会』のメンバーは去って行った。




