第401話 海底資源調査2
ムビは未知の資源の反応をキャッチし、深海を目指して潜り続けた。
水深は既に4000メートルを超えている。
(こっちだ。もっと深い方か……)
海は急激に深くなっていく。
まるで谷底へ落ちていくような感覚。
水圧は強まる一方で、ムビの魔力消費量はどんどん増えていく。
暗く冷たい深海の流れに、ムビは言いようのない不安を感じる。
と、そのとき。
ムビの真横を、巨大な何かが通り過ぎた。
(うわっ!? こ、これ……クジラ!?)
50メートルを超える巨大なクジラが、ムビと共に深海へ潜っていく。
ギザギザの歯を見るに、恐らく肉食クジラだろう。
(すごっ……このクジラ、一体討伐レベルどれくらいなんだろう……?)
地上のS級モンスターなど一飲みにしてしまいそうな巨体。
幸い、ムビを襲ってくる気配はない。
(こんな深海まで潜れるなんて……。そういやクジラって、確か肺が潰れても平気って聞いたことが———)
———ガブゥッ!!
暗闇から突如、数十メートルはあろうかという巨大な口が現れ、クジラに噛みついた。
「グオォォォンッ!!?」
絶叫が響き渡り、ムビは思わず耳を塞ぐ。
クジラは暴れ狂い、水流が激しく乱れた。
(うわあぁぁっ!?)
上下左右も分からずムビは何度もひっくり返る。
巨大な口はクジラを咥え、そのまま深海の底へ引きずり込んでいった。
暗闇の底からクジラの絶叫がしばらく響き続け———やがて静寂に包まれた。
(嘘でしょ……あのお化けクジラが、食べられた!?)
ムビは巨大な口が消えて行った、深海の真っ暗闇を見ながら震えた。
(俺、今からあっちに行くんだよね……?)
恐る恐る、魔物探知魔法を発動する。
クジラがどうなってしまったのか気になった。
———半径数キロに、魔物の反応なし。
(……まじか)
通常の探知魔法は、Aランク以上の強力な魔物は探知できない。
ムビの探知魔法は特別で、Aランクはもちろん、その上のSランクの魔物ですら探知可能だった。
その結果が、反応ゼロ。
つまり、本当に魔物が存在しないか……或いは、Sランクを超える化物しか存在しないか、の二択。
(仕方ない……行くしかないか……)
ムビは意を決して深海に潜っていった。
◆ ◆ ◆
特に魔物と遭遇せず、ムビは深海6000メートルに到達した。
どうやらこのあたりは海溝になっているらしく、恐ろしく静かだった。
(反応は近付いてる……しかし、どこまで潜るんだろう……)
暗闇に光を照らし続ける。
海水は澄んでいて、数十メートル先まで見える。
だが、生物らしきものが何も見当たらない。
本当に何もいないのか。
もしかしたらすぐ近くに何かがいて、ずっと付きまとわれているのではないか……そんな不安が頭をよぎる。
魔力負荷は増える一方で、残るMPは半分を切っていた。
(怖いけど、ぐずぐずしてられない。早く資源があるポイントを特定しないと……)
ムビはさらに加速した。
水深7000メートル……8000メートル……。
反応は近い。
恐らく、もう目の前のはず。
そのとき。
「ブオオオオオッ!」
巨大な鳴き声とともに、深海の底から巨大な口が現れた。
(あっ! こいつ……さっき、クジラを食べた……!)
ムビの行く手を塞ぐように、ビルのような大口を開けている。
壁のようにそびえ立つ歯の一本一本が、人よりも大きい。
(くそっ……! こいつを倒さないと進めない、か……! 仕方ない……)
ムビは剣を抜き、戦闘態勢に入った。
しかし、様子がおかしい。
「ギャアアアアッ!」
明らかに苦しんでいる。
(な、なんだ……?)
ムビが戸惑っていると、暗闇から巨大な触手が現れ、口の魔物に巻き付いた。
バキバキバキッ!
骨の破砕音が響き渡り、口の魔物が折り畳まれていく。
(……海底に、何かいる……!)
ムビは詠唱破棄で、海底に向かって光の玉を無数に放った。
光の球は強く輝き、海底を明るく照らし出した。
(こ、これは……!)
ムビは一瞬、海底に山があると思った。
しかし、それは山ではなく、巨大なイカだった。
太さ数メートルはあろうかという触手で、口の魔物の全身を締め上げ、力ずくで引きちぎり、捕食していた。
(もしかして……クラーケン!?)
クラーケン。
古くから船乗りの間で語り継がれる、伝説の魔物。
その逸話は数知れず、あの鯨王と並び、海の恐怖の象徴とされる。
討伐推奨レベルを測るような対象ではない。
火山の噴火や津波と同じく、災害に属する存在。
人間がもし出会ったら、逃げるか死ぬか以外の選択肢はない。
(まさか実在したなんて……!)
クラーケンは口の魔物を飲み込むと、海底に鎮座した。
クラーケンの隙間から、何やら輝く液体が漏れ出る。
(ん? あれは……)
ムビの探知魔法が、その液体に反応を示す。
(間違いない! あれが液状化したミスリルだ!)
クラーケンは海底から溢れる液体をひたすら摂取しているようだった。
まばゆい光に照らされても、まるで動じる様子がない。
(あの液体、クラーケンの餌なのかな。ってことは、このあたりの海溝はクラーケンの巣なのかもしれない……)
ならば、クラーケンを倒さなければ、あの液体ミスリルは手に入らないのかもしれない。
———ギョロリ。
人間の数倍はありそうな目が、ムビに向けられた。
クラーケンはムビの存在に気付いたようだ。
(勝てるのか……? この怪物に……)
ビルのように巨大な触手がムビ目掛けて、ゆっくりと海底から昇ってくる。
触手はムビを包むように蠢き———
———バチィンッ!
ムビの剣に、弾き飛ばされた。
(固ったぁ! これが、生物の体!?)
ムビは驚いたが、それはクラーケンも同じだった。
触手を引いて、ムビの様子を伺っている。
(……やるしかない、か……! いくぞ、化物!)
ムビはクラーケン目掛け、飛び出して行った。




