第400話 海底資源調査
海底を泳ぐムビ。
周囲は既に真っ暗で、光属性魔法で周囲を照らしながら進み続けた。
海底の水は徐々に淀み始め、せいぜい10メートル先までしか見えない。
(うっ……ちょっと苦しくなってきた……)
水深は1000メートルを超え、ムビの肺にはおよそ数十トンの水圧が加わっていた。
風魔法で水圧を押し返し、ムビは肺へのダメージを防いだ。
ここから先は光魔法と風魔法を併用しながらの探索となるだろう。
(さて、この辺はどうかな?)
ムビは探知魔法を発動する。
半径数十キロに渡り無数の海底資源の反応をキャッチするが、魔油の反応はない。
(ここにもないかぁ……)
何せ海は広大だ。
ムビの探索範囲をもってしても、しらみつぶしに探す必要がある。
(もっと深い所ならあるかな……?)
———そのとき。
暗闇の中から太い触手が現れ、ムビの体に巻き付いた。
(はっ!? ちょっ、なに!?)
光を向けると、ビルほどの巨体を持つタコが、ぎょろりとした目でムビを見つめていた。
驚愕のあまり、ムビは思わず海水を飲み込んでしまう。
(し、しまった……!)
普通なら吐き出せば済む。
だが、ここは水深1000メートル。
数十トンの水圧で、海水が容赦なくムビの肺に入り込む。
「ゴボボボォッ……!!?」
強烈な窒息反射に襲われ、さらに水を吸い込む。
意識が遠のくムビは、渾身の力で風属性魔法を発動した。
(……このぉッ……!!)
肺に入った海水を一気に体外に押し返し、そのまま巨大タコをズタズタに切り裂いた。
巻きついた触手を振りほどき、ムビはようやく自由になった。
(し、死ぬかと思った……)
プカプカと浮かぶタコの残骸。
恐らく討伐推奨レベルは500といったところ。
陸なら問題にならない相手でも、深海では一瞬の油断が命取りになる。
(ちゃんと気をつけて探索しないとな……)
ムビは気を引き締め、さらに深海を目指して泳ぎ出した。
◆ ◆ ◆
深海2000メートル。
光は一切届かず、真の暗闇が広がっている。
水の流れは緩やかで、周囲は驚くほど静かだった。
(この辺ならあるかな?)
ムビは探知魔法を発動するが、相変わらず魔油の気配はない。
コポコポとムビの気泡が昇っていくだけ。
(ここにもないかぁ……)
これが10回目の探知魔法。
既に200キロ近く沖に出ているはずだ。
(魔油なんて本当にあるのかなぁ……ひょっとしてクローディアの海には、魔油なんて一滴もないんじゃ……)
潜水を始めて既に6時間。
絶えず風魔法と光魔法を駆使し、魔力を消耗し続けている。
魔力はまだ7~8割残っているが、潜れば潜るほど消耗は激しくなっていく。
ムビはさらに数十キロ泳いで、海底に足を付ける。
水深は2500メートルを超えていた。
(これで見つからなかったら、一旦諦めよう……)
そう思って探知魔法を発動し———ゴボッと口から気泡を吐いた。
地下深くから、探し求めていた反応。
(あった! 魔油の反応だっ!)
ムビは更に数キロ泳ぎ、反応のあった地点の丁度真上に辿り着いた。
もう一度探知魔法を発動する。
(間違いない、ここだ!)
およそ10キロほど地下に、巨大な魔油の油層が眠っている。
総量は把握しきれないが、かなりの埋蔵量だ。
ムビは位置探知魔法で、この場所をマッピングした。
陸に戻っても、この場所をピンポイントで把握できるようになった。
(やったぁー! クエスト成功!)
これで報酬の100億円は確定。
掘削すればさらに100億、海上輸送でまた100億。
夢のような額だ。
(良かったぁ。これでひとまずリリスに報告できそう)
ホッとしたムビは、足元に眠る魔油が気になる。
(どれくらいの埋蔵量なんだろう? よし、探ってみるか)
探知を地下へ集中させる。
範囲は100キロを優に超え、魔油の全体像が浮かび上がる。
(おぉー! めっちゃあるじゃん! これだけあれば、数十年は持つんじゃないかな? リリスもきっと喜んで……ん?)
地下深くを探っていたムビは、別の反応をキャッチする。
(え……なに、これ?)
今まで感じたことのない反応。
ムビは地上で一通り、鉱石や魔油など資源の反応を確認してきた。
ゆえに、探知の反応から何が地下に眠っているかはすぐに識別できる。
しかしこの反応は、それらどれとも異なる。
(しいて言うならミスリルの反応に近い……でも、これ液体だよね?)
ドロッとしたミスリル。
ムビの感覚を言語化するなら、それが一番しっくりくる表現だった。
(もしかして……未知の海底資源!?)
海底の調査は、人類史を振り返ってもほとんど進められていない。
これまでにない発見があってもおかしくない。
(こっちだ……こっちの深い方から反応がある……! よし、ついでに調査してみよう!)
胸を高鳴らせ、ムビはさらなる深海へと潜っていった。




