第3章最終話 帝国の皇帝
大陸の北半分を領地とする、世界最強の国家、ライアス帝国。
赤いローブに身を包んだ大男———皇帝ギルフォード・ライアスは軍法会議の場に座っていた。
目の前の席には軍服に身を包んだ上級将校が並び、部屋は緊張感に包まれていた。
「して、ルクス共和国との戦況は?」
「はっ! 魔装部隊の活躍により、敵戦線は壊滅! 我が帝国軍の圧勝です!」
上級将校の一人が報告する。
胸元には数々の勲章が光り輝いている。
「そうか。ダルク王国はどうだ?」
別の将校の勇ましい声が室内に響く。
「はっ! ここ数年ほど、国民皆戦力を宣言したダルク王国には苦戦を強いられておりましたが、此度の特殊作戦により敵主力部隊の撃滅に成功しました!」
皇帝は満足そうに、椅子のひじ掛けを何度か指で叩いた。
「それは良い知らせだ。特殊作戦とは、例の……?」
「はっ! レミリア・ブラッドシュタイン大尉による特殊作戦です!」
将校たちがざわめいた。
「またブラッドシュタインか」
「まさに戦神のごとき活躍ですな」
「勲章の数も、そろそろ我らに並ぶのではありませんか?」
「ははは、若輩者にはまだまだ負けてはおられませんな」
勝利の知らせに、張り詰めていた緊張感がやや綻ぶ。
ただ一人の将校を除いては。
「さて、ベルステイン国の戦況は?」
その一人が、皇帝に向かって報告する。
「はっ! 戦線を押し上げるべく、獅子奮迅の働きで敵戦力の撃滅に努めており———」
「……よい。つまり、苦戦しておるのだな?」
将校がビクリと肩を震わせる。
「も……申し訳ございません! 昨年からベルステイン国筆頭の勇将、ダラスが指揮を取って以降、敵の士気が異常に高く……!」
皇帝は静かに口を開いた。
「英雄ダラスか。奴が出てきては、苦戦もやむを得まい。———しかし案ずるな。これも余の策のうちよ」
将校が顔を上げ、目を見開く。
「……さ、策……!?」
皇帝は地図上の拠点を指差した。
「奴らの狙いはツヴァイだ。ここはパルナ運河の重要拠点であると同時に、ベルステイン国のかつての聖地。150年ぶりの奪還こそが、奴らの悲願」
そのまま戦線を指でなぞる。
「見よ、あの慎重なダラスがこれ程前線に出ている。ベルステイン国の世論も、ツヴァイを目前に熱狂しておる。『聖地奪還の陣頭指揮は、ダラス将軍以外にあり得ない』とな。ここが最大の好機。ダラスを討伐し、戦線を一気に押し返す」
将校たちはざわめいた。
「恐れながら陛下! ダラスは列国に名の知れた英雄……ベルステイン戦線の戦力だけで、果たして勝てるかどうか……」
「六国を同時に相手にしている状況では、兵士も兵站も武器も余力がありません! ダラスを討つほどの戦力を整えるのは、事実上不可能かと……!」
帝国の頭脳と呼ばれる将校たちが匙を投げる中、皇帝は不敵に笑った。
「問題ない。既に手は打ってある。ブラッドシュタイン大尉をベルステイン戦線に向かわせている」
———ブラッドシュタイン。
その名前を聞いた瞬間、将校たちは息を呑んだ。
「ブラッドシュタイン大尉を!? ダルク王国で任務を終えたばかりですぞ!?」
「ダルクとベルステインは、大陸の真反対です! 移動には最低でも2週間は……!」
しかし、皇帝の口調は揺ぎなかった。
「奴なら数日あればツヴァイに到達できるであろう。よいか? ベルステイン戦線は遅滞戦闘に努めよ。以上だ」
「……はっ!」
将校の勇ましい返事が響いた。
「……では、以上で軍法会議は終了とする。余は引き続き会議を行う。速やかに退出せよ」
将校たちは足早に部屋を出て行った。
皇帝は椅子に座ったまま、転移の魔導書を開く。
すると、皇帝は暗い大広間に転移した。
目の前の長机には9つの椅子が用意されており、既に8席が埋まっている。
「おー、来たねぇギル♪ ベルステイン戦線の方はどうだい?」
皇帝に気さくに声をかけたのは、秘密結社『両面宿儺』のボス、ミナリィだった。
「はい。ブラッドシュタイン大尉を向かわせております。ほどなく、攻勢に転じるでしょう。……グリフォリア、ダラスは間違いなくツヴァイに攻めてくるのだな?」
言いながら、皇帝は最後の空席に座る。
グリフォリアと呼ばれた男は、ニヤニヤしながら返答した。
「ああ、間違いねぇ。ベルステイン国のバカ国民どもは、散々焚きつけたからな。ダラスが日和れば、暴動が起きるレベルだぜ?」
「ははは、グリフォリアの手腕は相変わらず見事だな♪———さて、全員揃ったことだし、幹部会を始めようか」
ミナリィの言葉に、空気が引き締まる。
「今日、幹部の皆を呼んだのは他でもない。そろそろ、本格的に六国を滅ぼそうかと思ってね」
「おっ? ついにやるんですかい?」
グリフォリアがニヤニヤ笑った。
「うん。今回の作戦でダラスが消えれば、全ての戦線が安定する。あとは各国に送り込んだ工作員が動けば、この世界大戦、一気に帝国の勝利が確定するだろう。ギル、行けそうかな?」
皇帝は静かに返事をした。
「お任せください。お望みとあらば、すぐにでも各国を滅ぼしてみせましょう」
ミナリィは満面の笑みを浮かべた。
「ふふふ。じゃあそろそろ、人類を滅ぼしますか♪」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
長くなりましたが、第3章完結です!
次回からの第4章は『世界大戦編』になります!
最近仕事が忙しく、ひょっとしたら更新頻度が下がるかもしれません!
書き上げたら、すぐ投稿するようにします!
よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変喜びます!




