第390話 記憶喪失の原因
ムビはそのままギルドの資料室へ向かった。
(エレノアの様子、やっぱりおかしい……。記憶喪失の呪文でもかけられたのかな……?)
棚から数冊の本を抜き取り、ページをめくっていく。
やがて、該当しそうな項目が目に留まった。
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≪忘却呪文≫
幻術の一種。
効果によって、初級~上級魔法に分類される。
上級ともなれば、丸一日記憶を失う。
記憶喪失はいずれも一時的なもの。
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ムビは首を傾げる。
(うーん。エレノアは1週間以上記憶を失っているし、ちょっと違うよなぁ……)
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≪完全忘却呪文≫
現代では失われた極大魔法。
この呪文を受けた者は、それまでの一切の記憶を永遠に失う。
言語障害や歩行障害が発生し、赤子同然となる。
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(うーん。記憶喪失ではあるけど、ここまで酷くはなかったよなぁ。会話もできてたし、普通に立って歩いてたし)
次に“呪い”の可能性を疑い、関連する書物を読み漁る。
しかし、どれもエレノアの症状とは微妙に食い違う。
(軽度の記憶障害、ただし数日で記憶が戻る、か……。これも違う……)
日が沈むまでギルドの書物を読み漁ったが、結局手掛かりは見つからなかった。
(何か頭に強いショックを受けて、記憶喪失しちゃった、とかかなぁ? うーん、治るといいけど……。明日、王城の資料室を調べてみるか)
ムビは足取り重く帰宅した。
◆ ◆ ◆
その頃、酒場ではエレノアが冒険者たちに囲まれていた。
「私、ほんと彼氏欲しくてさぁー!」
ジョッキを勢いよく叩きつけると、周囲の男たちがニヤニヤしながら聞き入る。
「えぇ~? 俺とかどう~?」
「残念、おじさんはだーめ♪」
「バカ! お前が付き合えるわけねぇだろ、ぎゃははは!」
酒場の半分をエレノア軍団が占有し、活気に満ち溢れていた。
「エレノアちゃん、今まで付き合った人とかいないの~?」
エレノアは少し考えるように首を傾げる。
「私さぁ、街をいくつか転々としてここまで来たんだけど。道中、何人か付き合ってみたんだけど、なんか違うなぁ~って」
「はいはい! 俺がエレノアちゃんの王子さまになりまーす!」
「だからぁ~、おじさんはだめなの~♪」
エレノアは上機嫌に笑う。
「でさぁ、エレノアちゃん、どう? うちのパーティ入ってみない?」
これで本日数十件目のパーティ勧誘。
「ん~、ちょっと気が乗らないかなぁ~」
「えぇ~? エレノアちゃんの合格基準って何なの~? やっぱり強いパーティがいいの?」
エレノアはビールを一口飲み、眉を寄せる。
「んー、わかんない。別に基準はないんだけど……ビビッと来たら、かなぁ?」
「なんだよそれー! どうせイケメンがいいんだろ!?」
「あはは、確かにイケメンはポイント高いかも♪」
「くっそー、俺ら無理じゃん! ぎゃはは♪」
エレノアはステーキを頬張り、ふと思い出したように口を開く。
「そういえばさ、ギルドで私に話しかけてきた男の子いたじゃん? あれ、誰?」
冒険者たちは目を見開いた。
「まじかよ!? エレノアちゃん、ムビのこと知らないの!?」
「S級冒険者だぜ!? 大会あんなに盛り上がったのに、まだ知らない人間がいたとは!?」
エレノアは平然とビールを飲む。
「へぇ~? そんなにすごいの?」
「すごいなんてもんじゃねぇよ! ありゃ化物だ!」
「俺たちが束になったって全然敵わねーよ!」
「ふぅ~ん。そうなんだぁ~」
エレノアはムビの顔を思い浮かべる。
(あの人、ちょっとビビッと来たんだけどなぁ~。私よりも強いのかな?)
周囲をキョロキョロ見渡す。
(ここにはついて来てないのかぁ。ふ~ん……)
◆ ◆ ◆
翌日、ムビは王城の資料室に向かった。
ここは王族・貴族、そして騎士やS級冒険者のみが入室を許される特別な場所だ。
ギルドの資料室とは比べ物にならない広さと蔵書量に、ムビは思わず息を呑んだ。
(ここなら、何か見つかるかも)
片っ端から資料を漁ること数時間。
ついに、気になる記述を発見した。
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≪蘇生と記憶について≫
人間の蘇生は『生前の状態に戻る』性質が強い。
しかし魔物の蘇生は『転生』に近い。
ゆえに、ダンジョンでリスポーンする魔物は記憶の大部分を失っていると考えられる。
魔物の学習能力が低く、何度も同じ戦術に嵌ってしまうのはこのためだ。
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息が止まる。
(えっ……? エレノアって、まさか……)
震える手で、魔物のリスポーンに関する文献をさらに集める。
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≪魔物のリスポーンについて≫
魔物がダンジョンに居座る理由は、リスポーンにあると考えられている。
瘴気の濃い強力なダンジョンでは、高確率でリスポーンが可能となる。
強力な魔物ほどその確率は上昇し、異界クラスのダンジョンでは、フロアボスが一定間隔で必ず復活する。
ただし、戦闘に必要な最低限の記憶しか戻らず、弱点となる戦法は何度でも通用する。
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≪伝説の冒険者の異界探索≫
「ふははは、よく来たな。我が名は———」
言語を操るフロアボス。
毎回同じ自己紹介。
倒すのはこれで10回目だというのに、奴は俺たちを覚えていない。
毎回同じセリフを吐き、同じ罠に嵌る。
まるで初対面のように。
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リスポーンによる記憶喪失。
エレノアの症状に、かなり近い。
ムビは氷水をかけられたような気分だった。
(エレノア……死んじゃったの……?)




