第389話 謎の冒険者
翌日、ムビは冒険者ギルドを訪れていた。
目的は、S級冒険者への正式登録手続きだ。
「……では、以上で全ての手続きは完了です。お疲れ様でした」
受付嬢が書類をまとめ、深々と頭を下げる。
「『四星の絆』は本日をもって、一般ギルドを卒業となります。今まで当ギルドをご利用いただき、ありがとうございました」
「お世話になりました。では」
ムビは静かに立ち上がり、受付に背を向けた。
これで一般ギルドとはお別れだ。
今後は王女リリス、あるいはその代理人から直接依頼を受けることになる。
『四星の絆』としてこの場所に来ることは、もうないだろう。
「やったな、ムビ! おめでとさん♪」
「S級かよ、すげぇじゃねぇか!」
数人の冒険者が駆け寄り、ムビの肩を叩いた。
「ありがとうございます。皆さんも、どうぞお元気で」
「くぅー、もう完全に雲の上の存在だな!」
「お前ならS級でもやれるぜ! 頑張れよ!」
和やかな空気が流れたそのとき、ギルドの入口で突然歓声が上がった。
あっという間に人垣ができ、ざわめきがこちらへ押し寄せてくる。
「なぁ、うちのパーティに入らねぇか!?」
「うちは王都でもトップ20に入るパーティで———」
(何だ、あれ……?)
ムビが首を傾げると、周囲の冒険者たちが会話を始めた。
「おい、来たぞ。噂の“謎の冒険者”だ」
「ああ。相変わらず、すげぇ人気だ」
ムビは男に尋ねた。
「謎の冒険者?」
「ああ。つい3日前に現れた新星でよ。どこのパーティにも属さず、ソロで登録して、もうCランクまで昇格してるんだ」
「初日でFランクに、2日目は2ランクアップのDランク、昨日でCランクだ。な、化物だろ?」
「へぇ、それは凄いですね」
ムビは素直に感心した。
冒険者ランクは、自分のランク帯の魔物を10体倒せば昇格する。
つまり、最初から飛び抜けた実力を持っているということだ。
「しかもこれが、すげぇ美人なんだ♪」
「だから引く手数多でよ。人垣も日に日に増えてやがる」
人垣がこちらへ押し寄せてくる。
(ふーん。どんな人なんだろう……)
ムビは人垣の中央に視線を向けた。
人の隙間から、"謎の冒険者"の姿がちらりと見えた。
「えっ……」
思わず声が漏れた。
白と黒のツートンの髪色。
整った顔立ち。
魔王軍の少女、エレノアだった。
(エ、エレノア!? なんでここに……!?)
一時期ムビの家に居候していた少女。
「ムビの魔装を探しに行く」と言い残し、それきり姿を消していた。
「もう、道を開けてよ! はいはい、勧誘のお話は後で伺いますからね~♪」
エレノアは人垣をかき分け、受付に保存袋をドサリと置いた。
「これ、Cランクの魔物の討伐証明! 確認、お願いね♪」
受付嬢が恐る恐る中身を確認する。
「は、はい……アルゴリザードの尻尾、27本。確かに受理しました。規定により、Bランクへ昇格です。おめでとうございます」
「はーい、ありがと♪」
エレノアは軽く手を振り、出口へ向かう。
「す、すげえぇぇぇ!!? これで4日連続昇格かよ!?」
「新人記録なんじゃねぇか!? まさか、明日Aランクなんてことも……!?」
人垣がさらに広がっていく。
「なぁなぁエレノアちゃん! うちに入ってよ!」
「これから飲みに行かない? Bランクの昇格祝いにさ♪」
殺到する冒険者たちに、エレノアは笑顔で応じた。
「もう~、しょうがないなぁ~♪ じゃあ今日も奢ってね、おじ様方?」
「よっしゃーーー! 任せとけーーー♪」
歓声が響く中、人垣の流れがふと止まった。
エレノアは前方の冒険者にぶつかる。
「きゃっ! ちょっと、前に進んでってば———」
冒険者たちは、目の前の男に息を呑んでいた。
そこに立っていたのは、ムビだった。
「うおっ、ムビだ!」
S級冒険者の登場に、周囲がざわめき、自然と道が開く。
ムビとエレノアが向かい合った。
「久しぶり、エレノア! どこ行ってたの? 魔装を探しに行くって言ってたのに」
周囲の冒険者たちがヒソヒソと囁く。
「おい、ムビの知り合いだったのか?」
「くそっ、あいつばっかり、どうして可愛い子と……!?」
ムビはエレノアに近付いて笑いかける。
「ねぇエレノア、俺、大会優勝したんだ。S級冒険者になったんだよ! 呪印も解除して———」
エレノアは首を傾げた。
「どなたです?」
一瞬、時が止まった。
「え? どなたって……俺だよ、ムビだよ?」
エレノアは口元に手を当て、くすりと笑う。
「ムビ? 変な名前。私と会うの初めてですよね? 新手のナンパですか? 勧誘なら、このあと酒場で伺いますよ♪」
そう言って、ムビの横をすり抜けていった。
「待ってー、エレノアちゃーん♪」
冒険者たちがエレノアを追い、ギルドの外へ消えていく。
残されたのは、ぽつんと佇むムビだけだった。
「ぎゃははは! 振られちまったなぁームビ?」
他の冒険者たちが、ムビの肩をポンポン叩く。
「まさかこのご時世、お前のこと知らねー人間がいるとはな!」
「変わった子だよな! でもよ、かえって好感度ましましだぜ♪」
「なぁ、飲み会、俺らも行こうぜ♪」
冒険者たちはエレノアを追って、ギルドの外へ出て行った。
ムビは呆然と立ち尽くしていた。
(どうなっているんだ、一体……?)




