第388話 ムビとリゼ7
リゼは結局、夕方までムビの屋敷に居座り、夜はそのまま外食に連れ出された。
最近不安定だったメンタルは完全に復活したようで、ムビは終始からかわれっぱなしだった。
「でさ、新しく作るパーティなんだけど」
王都の夜景を見下ろす高層レストラン。
ワインを揺らしながら、リゼが何気なく切り出した。
「今のところ、私とあんたとマリーが確定なんだけど。あと1人足りないのよねぇ」
「だから、俺は入らないって!」
ムビは頬を膨らませて反発した。
しかし、リゼはニヤニヤ笑う。
「なによ、あんたまだ照れてんの? いい加減素直になりなさいよね?」
「照れてない! それに俺はS級の依頼があるから、そっちにはあんまり顔出せないよ?」
「いいわよそれで。Aランクまではあんた抜きでも余裕だし。あんたはたまに来てくれればいいの♪」
Aランクパーティの平均レベルは80~90。
リゼとマリーはレベル600を超える。
どんな依頼も、おつかい感覚で完遂するだろう。
「というかリゼ、冒険者をやる意味ってあるの? もう十分強いし、お金だってあるでしょう?」
リゼはスープをくるくる回しながら、少しだけ視線を落とした。
「まぁそうなんだけど、あの暮らしを維持するためにも、まとまった収入が必要なのよ。『Mtube』の影響力もバカにならないしね。……それに元々、あんたとパーティ組みたかったし」
ムビが首を傾げる。
「別に俺じゃなくても良くない?」
「何言ってるのよ? あんた以外に誰が『Mtube』の動画を編集するのよ?」
ムビは目を細くした。
「……また全部俺に丸投げ?」
「あったりまえじゃない♪ いや、前と違って、ちゃんと報酬は出すわよ?『白銀の獅子』時代、あんたがどれだけ最高の仕事してたか、さすがに今なら分かるし。1本当たり、100万でどう?」
「ひゃ、100万円!?」
ムビは思わず叫んだ。
一般的な相場の数倍の額だ。
ちなみに『白銀の獅子』時代は、動画1本当たり1000円だった。
「あんたの動画にはそれくらいの価値があるでしょ? それに、『白銀の獅子』時代にピンハネしてた分も込みでね」
リゼはゆっくりとスープを飲んだ。
「いや、あれはゼルが決めた報酬だし、別にリゼが負担する必要ないよ?」
「なに言ってるのよ? 私だってパーティ会議で承認してたし、その額で十分って思ってたもの。責任の一端は間違いなくあるわ。とにかく、もうあんたに失礼は働きたくないの」
ムビはちょっと感動した。
散々バカにし続けてきたあのリゼが、ここまで言うなんて。
「ありがとうリゼ。そんな気持ちがあるなら、俺もっと安くていいよ。なんなら無料でも……」
しかし、リゼは呆れ顔をした。
「あんたねぇ、そんなんだから悪い奴に騙されるのよ? それに、借金はどうするのよ? 背に腹は変えられないはずでしょ?」
ムビはうっ、と息が詰まった。
「新しいパーティでは、毎日『Mtube』に動画を投稿するつもりよ。あんたがうちのパーティに入ってくれるなら、毎日動画編集の依頼を出すわ。毎日100万円だから、月収3000万円は保証する。どう、美味しくない?」
正直、この提案はかなり美味しい。
ムビなら10秒もあれば動画を制作できる。
ムビの数千億の借金の原因、『四星の絆』のコンサート会場の維持費ぐらいなら賄える。
「……分かった。俺、パーティに加入するよ」
ムビの返答に、リゼは満面の笑みを浮かべた。
「ふふ、よろしくね?」
テーブル越しに、ムビとリゼは握手する。
「さて、話を戻すけど、前衛があと1人足りないのよね。あんた、誰か心当たりない?」
「前衛かぁ……」
ムビはワインを口に含み、国内の冒険者たちの顔を思い浮かべる。
「ソロで有名なギュスタフとかどう? 臨界者になったって話だし」
しかし、リゼは苦い顔をする。
「嫌よ。言っとくけど、男を入れるつもりはないわ。何されるか分かったもんじゃないし」
確かに、血気盛んな冒険者の大半は、サキュバスであるリゼの色香に耐えられないだろう。
『剛腕巨人』のようなトラブルに発展しかねない。
(とはいえ、前衛なんて血気盛んな男ばっかりなんだよなぁ……)
リゼやマリーの実力に釣り合う女性の前衛なんて、それこそ『四星の絆』か『エヴァンジェリン』くらいしか思いつかない。
「じゃあさ、うちのユリさんかシノさんは?」
「それも嫌。なんで敵を迎えなきゃいけないのよ?」
リゼはガルルと唸る。
最適解を提示したつもりだったムビは、何が不合格だったのか分からなかった。
「敵ってなに? 同じパーティに入れば味方じゃん?」
「うっさいわね! 敵は敵なの!」
しばらく問答が続いたが、リゼの意志は鉄のように固かった。
◆ ◆ ◆
「じゃあまたね、ムビ♪ 分身体くん、エスコートよろしくね?」
食事も終わり、リゼはムビの分身体の腕を抱きながら、鼻歌交じりに帰っていった。
今度の分身体は、ムビのパラメータの1割を振っている。
リゼに襲われる心配はもうないだろう。
結局4人目のメンバーは決まらなかった。
「どこかに良い冒険者はいないかなぁ……」
夜風に呟きながら、ムビは家路についた。




