第387話 ムビとリゼ6
それから3日間、ムビは毎日リゼとSNSで連絡を取り合った。
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おはよう、リゼ。お腹減ってない?
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ええ、大丈夫よ! ありがとう♪
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こんなやり取りを、1日2~3回。
どうやらリゼの空腹は落ち着いているらしい。
(よかったぁ……サキュバスの本能は沈静化してるみたい)
今日はリゼが分身体と一緒に、ムビの屋敷へ来る予定だ。
直接会って状況を確認し、今後の方針を決めるつもりだ。
分身体が大人しいなら、パラメータの配分を少し上げてもいいかもしれない。
それに分身体には、3日も恥ずかしい思いをさせている。
一旦本体に戻してあげないと、嫌になって造反してしまうかもしれない。
実際、分身体でいる期間が長ければ長いほど、強固な自我が生まれ、造反リスクが高まるというデータがある。
「おーいムビー♪ やっほー!」
庭先のテーブルに座っていたムビの耳に、明るい声が届いた。
分身体に連れられ、リゼが敷地内を歩いてくる。
「あぁ、リゼ。こんな遠くまでわざわざありがとう」
「いーえ♪ それより、あんたの屋敷すごいじゃない! びっくりしたわ!」
「はは……まぁ、ほとんど押し売りみたいに買わされたんだけどね」
リゼはすっかり元気になったようで、ムビはホッと胸を撫でおろした。
……ちょっと元気すぎる気もするが。
「で、どうだった、3日間?」
リゼは笑顔のまま、ほんの一瞬だけ黙った。
「……えぇ! すっかりお腹も満たされて、ずーっと正常でいられたわ! ありがとう♪」
(……今の一瞬の間はなんだ?)
リゼの肌艶がやけに輝いて見える。
対して分身体は、げっそりしている。
(気のせいかな? ははは……)
ムビが指を鳴らすと、テーブルに紅茶が現れた。
「まぁまぁ座って。お茶でもどうぞ」
「ありがとう! あ、これお土産♪」
リゼが差し出した紙袋には、王都でも有名な高級茶菓子が入っていた。
「おぉ、ありがとう!これ半分こして、お茶と一緒に食べようか」
「あら、私までいただいていいの?」
「うん、もちろん! あっ、その前に、分身体くんを一旦戻すね?」
ムビは分身体と合体する。
脳裏に、分身体の記憶がフラッシュバックする。
(あぁ、そうか。分身魔法って、分身体を戻すと記憶が共有されるんだった。どれどれ、3日間どんな様子で———)
ムビはカップを落とし、叫んだ。
「……ちょおぉぉぉぉ!? なにやってんのぉぉぉぉ!!?」
広い庭園中に、ムビの叫びが轟く。
あまりの声量に、鳥たちが一斉に飛び立った。
顔を真っ赤にして涙目のムビとは対照的に、リゼは一仕事終えたかのように、優雅に紅茶を飲んだ。
「なにって、なによ? 私はただ、目の前の食事をいただいただけよ?」
「絶対接触禁止って言ったよね!!? なんでこんなことしたの!!?」
リゼは目を細めて、ニヤリと笑った。
「だからぁ、“こんなこと”ってなぁに? 言ってみなさいよ?」
ムビは口ごもった。
とても口に出せるような内容ではない。
それを見透かすように、リゼの眉が意地悪く下がった。
「ふふ、分身体に与えるパラメータを1%にしたのは失敗だったわね? いくらあんたが強くても、1%なら余裕で襲えるわ♪」
ムビの脳裏に、分身体が体験したこの3日間の記憶が次々に蘇る。
同時に、ムビの顔がどんどん赤くなる。
「あんたとの体の相性、抜群だったわよ? いやぁ~、おかげで飢えを凌ぐどころか、お腹がはち切れるくらい満腹になったわぁ! ご馳走さまっ♪」
「ふ、ふざけ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!! ほんと、何してんの!? こ……この変態! 変態サキュバス!」
フラッシュバックされていく記憶に、ムビは阿鼻叫喚した。
その様子を見て、リゼはくすくす笑う。
「そうだわムビ、話があるの♪ 私と一緒に、新しい冒険者パーティ作らない?」
「え、新しいパーティ!?」
ムビはフラッシュバックに苦しみ、それどころではない。
「そう♪ 一般ギルドは二重加盟禁止だけど、『四星の絆』はもう一般ギルドの管轄外になるでしょ? だから、あんたは一般ギルドの別パーティに加入できるの。私は『白銀の獅子』を脱退したし、新しいパーティを作ろうと思って♪ そうすれば、先日の『剛腕巨人』みたいなウザい勧誘も避けられるし」
「だ、だれがこんな変態のパーティになんか加入するかぁー!!」
ムビの叫びに、リゼは余裕たっぷりの笑みで返した。
「なによ? 私で童貞捨てたくせに?」
ムビは吹き出す。
「す、捨ててないっ! 分身体だから! 俺じゃないから!」
「でもさっき合体したでしょ?」
「たった1%だから! 完全にノーカンだから!」
「ふぅん? まぁいいわ。1%は果たして童貞なのか非童貞なのか、たっぷり議論しようじゃない?」
リゼは満面の笑みで紅茶を啜り、ムビは頭から煙を出しながら、しばらくフラッシュバックに苦しみ続けた。




