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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第386話 ムビとリゼ5

 リゼの独白を、ムビはただ黙って聞いていた。

 吐息が触れるほどの距離で、リゼの瞳は潤み、熱を帯びている。


「お願い、ムビ。ムビはじっとしてるだけでいいの。私が全部、勝手にするから……」


 リゼは猫のような動きでムビににじり寄る。

 ムビは反射的に肩を掴んで押し返そうとしたが、リゼはそれすら甘い刺激のように受け止め、さらに身体を寄せてくる。


(どうしよう……。正直、リゼの力にはなりたい。でも、そんなことはできないし……。一体、どうすれば……)


 リゼの理性は限界に近い。

 虚ろな瞳に浮かぶ笑みは、恋する乙女のそれであり、同時に飢えた獣のそれでもあった。


(何か方法は……何か……)


 その瞬間、ムビの脳裏にひらめきが走る。


「ね、ねぇ! リゼ、ちょっと待って!」


 ムビの声に、リゼの動きが止まった。


「要は、レベルの高い人の……その、アレならいいんだよね……?」


 リゼはぐすりと鼻をすする。


「言ったでしょ? 私は、あんたじゃなきゃ嫌なの。いくらレベルが高かろうが、他の奴のなんて……」


「い、いや! そうじゃなくて! お腹自体は、満たされるんでしょ?」


 リゼは拗ねたような目でムビを見る。


「そりゃそうだけど……何度も言ってるけど———」


「わ、分かったから! 協力する! だから、一旦離れて! ね?」


 その言葉を聞いた瞬間、リゼの張り詰めた表情が一気に和らいだ。


「ほ、ほんとに……? ほんとのほんとのほんとに……?」


「ほ、ほんとだから! だから、一旦落ち着こう!」


 リゼはゆっくりとムビから離れ、ソファの上で正座した。


「う、嬉しい……。ありがとう、ムビ。大丈夫、絶対後悔させないから……」


「あ、待って! 協力はするんだけど、俺のを直接ってわけにはいかない」


 ムビが手を上げて制止すると、空気が一瞬で固まる。


「えっ? じゃあ、どうするの?」


「うん。だから、こうする」


 ———ポン。


 ムビは分身魔法を発動し、自分と瓜二つの分身体を作り出した。


「彼が俺の代わりに、リゼのご飯作るから。よろしくね、俺?」


 ムビが笑顔で分身体の肩に手を置くと、分身体は顔を真っ赤にして叫んだ。


「えぇっ!? ちょ、ちょっと待って! 俺やだよ!?」


「何言ってんだよ、分身体のくせに! 大人しく命令を聞いてよ!?」


 ムビと分身体の押し問答を、リゼはぽかんとした顔で見つめていた。


「お、驚いた……。あんた、分身魔法なんて使えたの? 禁術じゃない」


「うん、まぁこっそり。何回か使って、上手くいったんだけど……」


 分身魔法は、魂とパラメータを分離し、術者本人の“もう一人”を作る。

 分身体が死ねば、その魂とパラメータは永遠に失われる。


 さらに分身体は自我を持つため、造反や逃亡の危険もある。

 圧倒的なハイリスク……ゆえに、禁術。


 ムビがこの術を使うのは、ある意味自分自身を信用しているからだ。

 例え分身体になろうとも、自分の役割を理解し、せっせと目的を遂行するはずだと。


 しかし、今回はどうも様子が違う。


「やだやだやだ! それなら、別の分身体に命令してよ!?」


「何言ってるの!? 分身体の多重生成はリスクが伴うでしょ!?」


 30分ほど本体と分身体で揉めたが、結局分身体の方がしぶしぶ折れた。


「というわけでリゼ。彼が協力してくれるから、よろしくね?」


 満面の笑みの本体と、ぶすくれた表情の分身体。

 リゼは既に涙も引っ込んでいたが、安堵したように苦笑した。


「あはは! 何よこれ、意味わかんない! でも……ありがとう、ムビ」


「うん。彼には俺のパラメータの1%を譲渡してるから、その辺の冒険者よりずっと強いよ」


 1%とはいえ、レベルはゆうに100を超えている。

 これだけのパラメータがあれば、リゼの空腹を満たせるはずだ。


「ふふふ、よろしくね、分身体のムビ? それじゃあ、早速———」


 リゼがにじり寄ろうとした瞬間、本体ムビが手を伸ばして止めた。


「あっ。分身体と直接そういうことするのは禁止ね?」


 数秒の静寂。


「は、はぁ!? じゃあ、どうやって……」


「分身体くんが自分で出すから、それを摂取して欲しい。分身体とはいえ、やっぱり俺も恥ずかしいから」


 リゼは目を丸くする。


「えっと……恵んでもらう身でなんだけどさ……その方が、かえってエロくない?」


「そ、そうだよ! 変態じゃん!? 自分がしないからって、好き勝手言って!」


「えーい、2人ともだまらっしゃい!」


 本体ムビが2人を一喝する。


「とにかく、直接の摂取は絶対禁止! 分かった!?」


「わ、分かったわよ……」


 リゼは大人しく首を縦に振る。

 本体ムビは満足げに笑った。


「よし、じゃあ分身体くんは置いて行くから、3日ぐらい様子を見ようか。もしも足りなかったら、俺に連絡して」


 リゼの空腹を満たすだけなら、もっと分身体のパラメータを上げた方がいいかもしれない。

 だが、分身魔法はリスクが大きい。

 消失や造反のリスクを考えると、まずは1%程度で様子を見たい。


「ありがとね、ムビ。やっぱり、あんたに相談して良かったわ」


 リゼは泣き腫らした目で笑った。

 3人で後片付けをして、ムビはそのまま帰宅した。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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