第381話 リゼ争奪戦
ムビはぽかんと目を丸くした。
「決闘……ですか? 俺と?」
挑発的な笑みを浮かべた男が、胸を張って宣言する。
「そうだ! お前が勝ったらリゼのパーティ脱退を認めてやる。ただし、俺たちが勝ったら——『四星の絆』の女子四人を、まとめて『剛腕巨人』に加入させてもらうぜ!」
酒場が一瞬静まり、次の瞬間には大歓声が爆発した。
「マジかよ! 『四星の絆』とやるのか!?」
「いいぞー! やれやれー!」
男の後ろにいた仲間二人が、慌てて耳打ちする。
「お、おい……大丈夫なのか? 相手はS級パーティだぞ?」
男は振り返り、声を潜めてニヤリと笑った。
「心配すんな。『四星の絆』はムビ以外、全員入院中って話だ。3対1なら勝ち目は十分ある」
「けどよ……『白銀の獅子』はムビ一人にやられたんだぜ?」
「バカか。あれはリゼの裏切りがあっただろ? ゴリは戦闘不能寸前、マリーも裏切った。実質ムビとゼルの一騎打ちだったって説もあるんだ」
仲間2人の表情がみるみる明るくなる。
「な、なるほど! そういうことか!」
「くくく……それによ、お前ら知ってるか? ちゃーんと頭使って計算してみろ?」
男が人差し指を頭に当てる。
「人間のレベル上限は100って話だ。ムビの野郎は当然レベル100だろう。俺たちのレベルは、全員35。くくく……もう分かっただろう?」
「ま、まさか……?」
2人が喉を鳴らし、男が頷く。
「そうだ! 35×3は125! 俺たちが力を合わせれば、ムビの力を超えるってわけだ! だははは、どうだ、名案だろうが!?」
「さすがだぜ! 俺たちが有利じゃねーか!」
興奮する仲間たちを見て、男がいやらしい笑みを浮かべる。
「さらによ、この試合勝ってみろ? リゼだけじゃなく、『四星の絆』の可愛い子ちゃんたちまでついて来るんだぜ? そうなりゃ、俺たちの天下だろうが?」
「うおー!? 行くしかねぇぜ!」
「ヒョヒョヒョ、ハーレムの完成ですなww」
3人の意志が固まったところで、男は振り向いてムビを見下ろす。
「あー、そういうことだ。どうする、俺たちの挑戦を受けるのか!?」
ムビは頬をかいた。
「えーっと……そっちはリゼ1人で、こっちは4人ですか? つり合いが取れてない気が……」
「うるせぇ! こっちは無理難題を聞いてやってんだ! それくらい賭けてもらわなきゃ割に合わねーだろうが!?」
怒鳴られ、ムビは困惑気味に答えた。
「わ、分かりました。それでOKです」
酒場は大盛り上がりだった。
「うひょー! S級冒険者の試合が見れるなんて!」
「頑張れよ、『剛腕巨人』ー!」
男は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ムビを指差した。
「よーし、決闘成立だ! 試合は、明日の正午! 逃げんじゃねーぞ、ぎゃはは!」
◆ ◆ ◆
翌日、王都の決闘フィールドには大観衆が詰めかけていた。
「ご覧ください、本日満員御礼! それもそのはず、先日S級冒険者入りしたばかりのムビの試合とあって、朝から大行列です!」
試合前から熱狂に包まれる。
「ぶっ飛ばせー、ムビー!」
「ムビ様、頑張れー♪」
フィールドにはムビと『剛腕巨人』の3人が並んでいた。
声援は9割9分ムビに向けられていた。
対する『剛腕巨人』の3人は、なぜか自信満々である。
「へへ……さすがの人気だな、S級冒険者様よ?」
ムビは3人の表情を見て、心底困惑していた。
(い、一体なんの勝算があって……? バカじゃないのか……?)
「がはは! 何を隠そう、俺たちも決闘には自信があんだよ♪」
「そうよ! わずか10年の間で、42勝8敗のベテランチームだ! たった一人で勝てるかな?」
自らの有利を信じて疑わない3人の顔。
いや、既に勝利を確信してすらいる。
(どうしよう……『実は真の力が』みたいな展開、ある?……というか、たとえそんな展開が10回あっても負ける気がしない……)
審判が高らかに宣言する。
「それでは、試合開始ィィィィ!!」
『剛腕巨人』の3人が構える。
「行くぞ! 三位一体———」
———バチィィィン!!
一瞬で接近したムビのデコピンで、1人が宙高く舞い上がる。
そのまま頭部がバリアを突き破り、力なくぶら下がった。
(……やばっ!? 殺しちゃったかな!?)
ムビは焦って上を見上げたが、手足がピクピク動いていた。
(……よかったぁ。死んでないみたい)
ムビが安堵のため息をつくと、男がムビに気付いた。
「あっ! てめぇ、いつの間に!?……あれっ? ブルーノの野郎、どこ行きやがった!?」
男が周囲をキョロキョロと見回す。
一連のムビの動きを、まるで目で追えていないようだ。
(……もういいや。終わらそう)
———バチィィィン!!
「ぶえええええええっ!!?」
二度目のデコピン。
男はきりもみ回転しながら吹っ飛んでいき、粉砕音と共に首が壁に埋まった。
(うん。叫んでたし、死んではなさそうだね)
残った禿ネズミのような魔法使いが素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「し、しええええええっ!? こ、こうさ———」
———バチィィィン!!
三度目のデコピン。
出っ歯が折れ、フィールド内をピンボールの様に跳ね回り、そのまま地面に転がって動かなくなった。
「しょ……勝負あり! 勝者、『四星の絆』!」
観客席が揺れるほどの歓声が上がった。
「す、すげぇ! 見えたか、今の!?」
「いや、早すぎて全然分からなかった!」
実況も興奮している。
「な、なんと! 試合開始からわずか5秒! 決闘史上、最速での決着となりましたぁー!」
大歓声を背に、ムビは出口に向かう。
脳裏に、ミラの言葉が浮かんでいた。
「よいか、ムビ? 超格下を殺さず倒すには、デコピンが一番じゃ♪ デコピンは奥が深いぞ? 強デコピン・中デコピン・弱デコピンがあっての……」
自分の指を見つめ、眉をひそめる。
(うーん、弱デコピンって難しいなぁ……)
指をピンピン弾きながら、ムビはフィールドを後にした。




