第379話 酒場での邂逅
「えーっ!? 来週にはもう依頼が始まるの!?」
リリスが帰ったあと、ムビは入院中の『四星の絆』の見舞いに来ていた。
さきほどのリリスとのやり取りを話すと、ベッドの上の4人は一斉に顔をしかめる。
「私たちが入院しているのに、もう始まるなんて……」
「まぁでも、ムビ君が1人いればなんとかなりそうだしね」
ムビは頭を抱える。
「そんなことないですよ……。国家プロジェクトですよ? できないならまだしも、失敗して事故でも起こしたら、一体どれだけの賠償請求が来ることやら……」
「いやいや、まぁムビくんならきっとなんとかなるって♪」
ルリがニヤニヤしながらムビの肩を叩いた。
「それで、報酬の100億なんだけど、5人で割って1人20億ってのは……」
「ダメですよルリ。全額、借金の返済に充てます」
シノがピシャリと言い、ルリは拗ねるように口をすぼめた。
「それにしても、一週間で本を数十冊読めってむちゃくちゃじゃない!? こんなの、100億積まれたって私には無理だよ!」
天を仰ぐユリに、ムビは苦笑する。
「まぁ、それはもう終わったんですけどね」
ユリが目をパチクリさせる。
「えっ、どういうこと? だって本渡されたのってさっきでしょ?」
「ふっふっふ、裏技があるんです」
ムビは近くにあった本を手に取る。
同時に、浮遊カメラに向けた。
「このようにすると、あら不思議」
パラパラと本をめくる。
10秒ほどで本を閉じた。
「ふむ、名探偵セイラーの小説シリーズですね。主人公の医者自身が犯人だったという内容みたいです」
「す、すごっ! 全部読んだの!?」
「はい。動画として撮影すれば、一瞬で内容を理解できるんです」
ムビが照れくさそうに頭をかくと、ルリは呆れたように枕に後頭部を埋めた。
「こりゃ、SS級もこなせそうだわ……。で、リリス様の本ってどんな内容だったの?」
「えーっと、経済学、地質学、構造学……いろいろです。多分半分くらいはリリスのまとめた資料で、各国の情勢、諸問題への対応方法や、その問題点もまとめてありました。すごくいい資料でしたよ」
「うわー、難しそう……」
ルリはふとムビの服装に目を留める。
「ところでムビ君、その服なに? イメチェン?」
ムビは黒いフードを身にまとっていた。
「これですか? 認識阻害付きのフードです。これを頭に被っていると、俺だって気付かれないんですよ」
実際にフードを被ると、顔が影に沈み、誰だか分からなくなる。
「おぉー、ほんとだ! 確かに誰だか分からない!」
「有名になり過ぎて、そのフードなしじゃ出歩けないってわけね」
「しかし、中二心をくすぐりそうなデザインね」
「ふふ、よくお似合いですわ」
ムビは顔を赤くしたが、フードのおかげで誰にも気付かれなかった。
そのとき、部屋の扉が開き、看護師が入ってくる。
「そろそろ面会終了のお時間です」
ムビは立ち上がった。
「じゃあ、また来ますね」
「うん、またねー♪」
4人が手を振り、ムビは病室を後にした。
◆ ◆ ◆
夜風が心地よい。
ムビはフードを被ったまま街を歩いていた。
人混みの中でも、誰一人としてムビだと気付かない。
(よしよし、フードがちゃんと効いてるな。……さて、ご飯でも食べて帰るか)
ムビは冒険者御用達の酒場に向かった。
店に入り、注文して料理を待つ。
そのとき。
「ぎゃーっはっはっは!」
店の奥のテーブルがやたら騒がしい。
客たちがそちらを見て眉をひそめている。
(うるさいなぁ、もうちょっと静かに……)
何気なく視線を向けたムビは、思わず目を細めた。
(あれ? あの席にいるの、リゼじゃない……?)
Cランクパーティ『剛腕巨人』の男たちに囲まれ、ひときわ目を引く美人が座っていた。
間違いなくリゼだった。
「これからは俺たちの時代だぜーっ! なんてったって、元『白銀の獅子』の最強魔導士、リゼが加入したんだからなぁー!」
周囲の冒険者たちが羨望の眼差しを向け、『剛腕巨人』に話しかけている。
「す、すげぇ……! どうやってリゼを口説き落としたんだ!?」
「ははは! そりゃ俺たちのオスとしての魅力よ♪ なぁ、リゼ?」
男がリゼを抱き寄せる。
ムビはため息をついた。
(あーあ。あんなことしたら、リゼにぶっ飛ばされるよ……)
しかし、リゼは顔をしかめるだけで、全く抵抗しない。
ムビは首を傾げた。
(……あれ? あの人、ほんとにリゼ? リゼならとっくに壁ぶち抜いて店の外まで吹っ飛ばしてるはずなんだけどなぁ……)
ムビは目を凝らして何度も確認する。
どう見てもリゼ本人だ。
「オスとしての魅力!? どういうことだよ!?」
冒険者たちが熱っぽく詰め寄り、男がニヤリと笑う。
「へへ……こういうことだよ」
ゴツイ手がリゼの豊満な胸を鷲掴みにし、揉みしだいた。
「うひょー! まじか!?」
「お前ら、そういう関係なの!? ちくしょー、羨ましいーっ!!」
「あのリゼにこんな真似して怒られないなんて……! こりゃまじで、『剛腕巨人』の時代が来たんじゃねぇか!?」
冒険者たちの羨望の眼差しを欲しいままにしながら、男が大笑いした。
「そういうわけだ! このまま俺たちもAランク……いや、Sランクまでのし上がってやるぜぇ! こないだ優勝した『四星の絆』だって、目じゃねぇww」
酒場が喝采に包まれる中、リゼは顔をしかめたまま、されるがままになっている。
(……リゼの奴、新しい趣味にでも目覚めたのか?)
ムビは、どうにも腑に落ちないまま、じっとその光景を見つめていた。




