第377話 リゼのその後3
<side:リゼ>
男はニヤニヤしながら立ち去って行った。
「あっ……」
じわりと目に涙が浮かぶ。
まるで飢えた末に食料を取り逃したような、説明のつかない喪失感だった。
……なんの涙よ!?
私の体、男なら誰でもいいわけ!?
『サキュバスの体もありかもしれない』。
一時でもそう思った自分が甘かった。
こんな体でまともに生きていけるわけがない。
さっさと人間に戻らなければ。
でも、人間に戻る方法なんて、あるのかな……?
私はそれから数時間、資料室を漁り続けた。
しかし、そんな方法は見つからない。
気が付けば、窓から西日が差し込んでいた。
ため息をついて、十数冊目の本を閉じる。
……ダメね。
日を改めるしかないか。
私は資料室を出て、ギルドのロビーに降りる。
そのとき。
「よぉ、リゼ? 調べ物は終わったかぁ?」
『剛腕巨人』のメンバーが、通路を塞ぐように立っていた。
無視して歩こうとするが、しつこくつきまとってくる。
「なぁなぁ? 俺たちと飲みに行かねぇか?」
「トップ冒険者同士、親睦を深めようぜぇ?」
その目に宿る下心は、サキュバス化した私には嫌でも分かる。
いや、こいつらなら人間の頃でも透けて見えるか。
「しつこいわね! 行くわけないでしょ!?」
私は火照る体を必死で抑え込みながら、足早に通り過ぎようとする。
「いいじゃねぇかよ? 奢るから、な?」
男が私の肩を掴む。
瞬間、頭に血が上った。
このザコ……!
私に触れんじゃないわよ!?
私は振り向いて、文句を言ってやろうと思い———
———気がついたら、酒場にいた。
は?
なにこれ?
目の前で男たちが、大笑いしながら飲んでいる。
私も笑っている。
頬が熱い。
……ちょっと待って。
私、ついて来ちゃったの!?
これがサキュバスの性質。
私は戦慄した。
まるで私ではない私を、第三者視点で見ているかのよう。
まずい!
正気のうちに、さっさと帰らないと……!
と思ったのも束の間、頭がフワフワし始めた。
視界が揺れて、グニャリと歪む。
あれ……?
私、何考えてたんだっけ……?
オヤジたちの下品な大笑い。
つられて、私も笑う。
オヤジたちの下心に満ちた目つき。
視線のちらつく箇所を艶めかしくアピールしながら、私もそういう視線を返す。
肩を組まれ、引き寄せられた。
太くてゴツイ指の力強さに、ゾワリとする。
……まぁ、なんか楽しいし、いっか……。
フワフワした気分とアルコールにどんどん頭を染められ———
———気付けば、天井。
「……え?」
ベッドの上で、一糸まとわぬ姿で寝ていた。
「おっ♪ 気付いたか、リゼ?」
両脇にガチムチの中年オヤジ2人。
ベッドの外にも禿ネズミのような魔法使いのジジイ。
「ちょっと! これ、どういう状況……!?」
私は起き上がろうとして、ガクンと動きが止まる。
両手首を縛られていた。
「へへ……なんだ、覚えてねぇのか? 昨日は散々盛り上がったじゃねーか?」
「そうそう、朝方に気ぃ失ってよぉ? すっかり日が昇っちまったぜ」
血の気が引いた。
「そ、そんな……」
男たちのいやらしい顔が迫ってくる。
「なんだ? 記憶にねぇのか?」
「ヒョヒョヒョ、さてはもう1回、ワシのエロ呪文を御所望ですかな?ww」
私は歯噛みする。
くそっ、こんなロープさっさと解いて……!
しかし、全然体に力が入らなかった。
私の意志に反し、体はこの状況を歓迎していた。
「へへ……覚えてねぇなら、たっぷり思い出せてやるぜ?」
両脇の男の顔が、私の胸に落ちた。
「ちょっ! やめっ……あああっ!」
ざらつく舌とむさい唇が蟲のように這い回る。
音を立てて吸われる度に体が痺れ、ますます力が入らなくなる。
「ヒョヒョヒョ、けしからん体つきですなぁww」
「ホントだぜ、これでトップ冒険者なんて嘘だろ♪」
「冒険者よりも風俗嬢の方が向いてるんじゃねぇか?」
ロープの結び目は固く、藻掻いても両手首を締め上げていくばかり。
ギシギシと音を立てる度に、男たちは調子に乗っていく。
「へへ……自力じゃ解けねぇか? 俺たちの仲間になるって心の底から誓うなら、解いてやるぞ?」
「だ、だれがこんな変態パーティになんか……んんっ!?」
男たちは体重を乗せ、私の動きをさらに制限する。
興奮した中年男性のむさくるしい熱気に包まれ、ベッドが軋む。
「おいおい、体は仲間に入りたがってんぞ?」
「正直な体だな?スケベされて気持ちいいのか?」
悔しくて頭がどうにかなりそうだった。
禿ネズミのような魔法使いのジジイが、私の頭の上に回り込む。
「ヒョヒョヒョ、ねちっこい呪文なら、いささか心得がありますぞ?」
私を見下ろしながら、怪しげな呪文を唱える。
「ちょ、なにやって……! へ、ヘンタイ!」
「ヒョヒョヒョ、魔法の奥深さを体に教え込んでやりますぞ?」
前歯を出しながら、目がいやらしく細まっていく。
私は身悶えるが、当然魔法からは逃げられない。
「こ、こんなの耐えられるわけ……! うはぁぁぁッ!」
「ぬふっ♪ 降参するときは『仲間にしてください』ですぞ?」
私はそのまま何時間も、男たちの勧誘の的にされ続けた。
勧誘はあまりにしつこく、熱烈で、日が暮れてなお執拗でねちっこかった。




