第373話 滅びの運命2
「滅びの運命って……どういうこと?」
ムビが問い返すと、リリスは静かに微笑んだ。
「はい。ムビ様はこのクローディア王国が、かつて世界の覇権を握っていたことをご存知ですか?」
「うん。確か、人類と魔王軍が争っていた頃、この国が世界で一番栄えていたんでしょ?」
「その通りです。当時の我が国のGDPは、2位の国に倍以上の差をつけていました。魔王軍との戦いでは常に主力を担い、勇者パーティ4人のうち2人を輩出したのもクローディア王国。もし我が国がなければ、人類は魔王軍に滅ぼされていた、とまで言われています」
ムビは頷く。
教科書で読んだ内容だ。
「しかし、魔王討伐後、衰退の歴史が始まります。1000年の時を経て、GDPは今や7か国のうち最下位。覇権国家である帝国とは、今や20倍以上の差があります」
「20倍!? そ、そんなに……!?」
「はい。仮にクローディア王国と帝国が1対1で戦争をすれば、あっという間に滅ぼされるでしょうね」
「で、でも、そうならないように、六国で同盟を結んでいるんでしょう?」
現在、この世界には7つの国が存在している。
北方の大半を支配する巨大国家・帝国。
そして南側に点在する6つの国々。
数百年前、北の果てから帝国が南下を開始し、周辺の数十か国が滅ぼされた。
その侵攻を食い止めるため、100年前に南側の全国家が同盟を結び、世界大戦が勃発した。
100年続くこの戦争は、いつしか“100年戦争”と呼ばれるようになった。
「一時は対帝国包囲網が機能していました。戦線を押し返し、同盟側が優勢だった時期もあります。しかし近年、その状況は崩れ去りました。100年かけて押し上げた戦線は、わずか10年足らずでほぼ元の位置まで後退しています」
「確かに最近、帝国に連敗してるって話はよく聞くね……」
リリスは深くため息をついた。
「その原因は2つあります。1つ目は、聖装の量産化に成功したことです」
「えっ!? 聖装って、現代では造れないんじゃ……!?」
レベル上限100を突破するには“人間性の喪失”が必要。
それを可能にするのが、装備者と一体化する聖装と魔装。
天才鍛冶師ガークエイクが魔装の製造に成功したばかりだが……。
「恐らく帝国にも、ガークエイクのような天才が現れたのでしょう。目撃情報は限られていますが、帝国兵が光と共に武器を出し入れする姿が確認されています」
確かに、聖装と同じ特徴。
「それにしても、一体どうやって……?」
「聖装の材料は人間です。恐らく敵・味方問わず、人間の死体を材料としているのでしょう」
ムビの顔が青ざめた。
「に、人間の死体……!? そ、それって許されるの?」
「もちろん、人道的には違反です。しかし、帝国にそんな倫理観は通用しませんからね」
リリスは涼しい顔で紅茶を口に含む。
「とはいえ、まだ数は少なく、一部の精鋭のみが装備しているに過ぎません。これだけでは戦況を覆すには不十分。本当の原因は、2つ目です」
リリスはカップをそっと置いた。
まるで空気に溶けるように、音が一切しなかった。
「ムビ様。“帝国の悪魔“……レミリア・ブラッドシュタインの名前はご存知ですか?」
リリスが初めて、眉をひそめた。
「確か……帝国に現れた大英雄、だよね?」
「その通り。少女の身でありながら、大陸を南北に分ける長大な戦線を飛び回り、あらゆる戦場で無敗。各同盟国の精鋭部隊、有能な指揮官たちが、この悪魔に殺されています」
「少女って……ミラみたいな、規格外の化物ってこと……?」
ムビは、戦場を駆けるミラの姿を思い浮かべた。
敵からすれば、確かに悪夢以外の何物でもないだろう。
「ムビ様……。人が強くなるには、どのような方法が最も効率的だと思いますか?」
リリスがじっとムビを見つめた。
「強くなる方法? それはやっぱり、レベルアップが手っ取り早いんじゃない? 強力な魔物のいるダンジョンで経験値を稼いでさ……」
「半分正解です。確かに、レベルアップこそが最も効率的な成長手段です。しかし、ダンジョンでの狩りはいささか非効率とも言えます。一日中ダンジョンを駆け巡って、出会える魔物はせいぜい10体かそこらでしょうから」
ムビは眉を寄せた。
「うーん……でも、それ以上の手段なんてあるのかな……?」
「ありますとも。戦場で人を殺せばよいのです」
平然と言ってのけるリリス。
「人を……殺す?」
「はい。ご存知ありませんでしたか? 人を殺した場合も、経験値を獲得できるのです。戦場なら、わざわざ探さずとも、目の前に“経験値”が溢れているでしょう?」
ムビは言葉を失った。
当然知らなかった。
というより、知りたくもなかった。




